福島常浩が語る2020年ロイヤルティマーケティング
時代は平成から令和へ。いまや日常生活やビジネスに欠かすことの出来ないスマートフォン(携帯電話)やパソコン、そしてインターネットは昭和に生まれ平成でコモディティ化し、平成後期に登場したスマートフォンやSNSは人々の繋がりに大きな変化をもたらしました。
令和の幕開けはIoTや5Gによって人とモノとの繋がりがより強くなっていく一方で、日本を始め人口減少が加速、市場の縮小が始まります。“接続性の時代”と”市場の縮小”。令和時代のマーケティングはどうあるべきなのか、トランスコスモスで5A Loyalty Suiteを推進する福島 常浩に話を伺いました。
※携帯電話(昭和40年~50年代) 1970年代後半 車載電話として実用化
※パソコン (昭和40年代) 1974年マイクロプロセッサが登場し各社パーソナルコンピュータを製造開始
※インターネット 1982年(昭和57年)TCP/IPが標準化されインターネットという概念が提唱
■インタビュイー
福島 常浩
トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員 |
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味の素株式会社にて多変量解析を用いた市場定義モデルの開発、家庭用新製品・新事業開発及びマーケティングを担当。 その後、GE Capital、三菱商事、ぐるなび、メディカルデータビジョンを経て、ビッグデータ事業、デジタルマーケティング責任者等を歴任。 2018年より現職。(※2020年1月現在)
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----はじめに、コンサルティング統括という組織はトランスコスモスの歴史の中でも目新しく感じます。
私が作ったわけではないのですが(笑)、マーケティングの概念が大きく変わってきており、これからロイヤルティマーケティングという考え方が非常に重要な概念になってきます。それを先んじて事業化を考えるために3年前に設立されました。このロイヤルティマーケティングは日本ではまだ大きなブームになっているわけではありません。
もう一つの目的として、トランスコスモスは運用に強い会社ですが、上流工程はお客様企業に任せていました。そうではなくて、お客様と同じ目線に立てることが重要。お客様が考えるマーケティングの上流工程についてお話が出来る機能を持とうという趣旨がありました。
----“マーケティングの概念が大きく変わってきている”とはどういうことでしょうか。
ジェローム・マッカーシー(Edmund Jerome McCarthy)が提唱した4P(Product・Price・Place・Promotion)という概念を近代マーケティングの始まりとすると、1964年からほぼ60年、戦略的マーケティングの時代が続いてきました。一言で言えば戦争の概念をビジネスに持ち込んだといえます。戦争と同じですから、戦う場所が決まって、戦い方、方法論が決まって、個別の戦い方(Tactics)が決まってくる。
そのマーケティングがどう変わるかというと、一つは市場を創造すること。もう一つが、ロイヤルティマーケティング。この二つがこれからのマーケティングの中心課題になっていくと思っています。
戦略的マーケティングには必ず相手がいました。しかし市場創造という概念は相手がいません。チャン・キム(W. Chan Kim『ブルーオーシャン戦略』著者)が、市場創造ということを心がけるに当たっては、戦略的マーケティングは何の役にも立たないと明言しています。これは本当にその通りで、戦略的マーケティングは変わってくると思っています。
2つめはロイヤルティマーケティング。これから日本は急激な人口減少時代に入っていきます。明治維新時に3千数百万人だった人口が急激に増加し2004年をピークに1億3千万人弱まで増えた人口が、ここから同じスピードで減少し始めます。一説には2050年の日本の人口は95百万人、2100年には47百万人。実に8千万人(63%)も人口が減少するとも言われています。
出典:内閣府 人口動態について
そのため、これまで経験したことがない、市場が小さくなるという時代になっていきます。これは日本だけでなく、グローバルでも同じ現象が起きていますが、そのなかでも特に日本は世界に先駆けてそういった時代に突入しています。いままではどんどん人口が増えていたため、新しく増えた市場の取り合いをしていました。しかし、これからは増えていきませんから、一度ご縁が出来たお客様をいかに永く自分のお客様として留まっていただくかが非常に重要になってきます。
CRMという概念やCXがこのことを指していて、トランスコスモスにおいても取り組んできましたが、これまでは伸びた市場の中での顧客の囲い込みを前提として考えていました。ですが、これからは市場が伸びないことを前提として、取り組む必要があります。市場創造とロイヤルティマーケティングが非常に重要な柱になっていくということです。
----それが、5A Loyalty Suiteのサービス化に繋がっているのですね。
トランスコスモスがロイヤルティマーケティングに注目したのは、非常に先見的と言って良いと思います。なぜなら、その重要性が世界中でも日本だけまだ理解されていないからです。ツールの市場を見るとグローバルではすでに7000億から1兆円の市場があります。しかしながら、日本ではまだ20億円と言われているレベルです。日本の経営者だけがロイヤルティマーケティングにまだ強い関心を示していないのです。従って、ビジネスを立ち上げるに当たっては、ロイヤルティマーケティングについてニーズを喚起する必要があると思いました。
今申し上げたトレンドに非常に近いことを言っているのが、フィリップ・コトラーの『マーケティング3.0・4.0』、つまりコトラーの著書でした。
そこで私は、共著者であるヘルマワン・カルタジャヤ(マークプラス社 創業者兼会長)、イワン・セティアワン(マークプラス社 CEO)がいるインドネシアのマークプラス社に飛び、日本のマーケティングの状況を説明しました。日本のマーケティングをもう一度浮揚させるためには、マーケティング3.0や4.0にある概念を普及させることが重要で、そのためにトランスコスモスもロイヤルティマーケティングのビジネスを立ち上げようとしていることを伝えました。その結果、日本ではトランスコスモス独占で5Aの尺度の全面公開に繋がりました。5Aの尺度に興味を持っている日本企業が何社も交渉に来たと聞いていますが、コトラーと一緒に研究しているマークプラス社から日本でただ一社に選ばれたということは誇りに思います。
----5Aは世界中で同じ尺度なのでしょうか。
その通りです。ただ、5A尺度の公式なものは英語で書かれています。これを日本に適用するには時間がかかりました。一つは言語が違うため、適切な日本語を当てるのに苦労しました。もう一つは国によって調査の環境が違います。たとえば、インターネットのない国はインターネットの調査が出来ませんし、アメリカのような国では訪問調査が出来ません。
----先日NHKでも特集されていましたが、日本では口コミのやらせなど、レビューが問題になっています。他国と比べて5A尺度に影響はありますか。
日本人は口コミをそのまま鵜呑みにしてしまう傾向はありませんが、世界で一番口コミをしない人たちです。TwitterやFacebookをやっていてもほとんど傍観者で、自分から書き込む人は少ないです。私の経験では中国人は世界でもトップクラスに発信する人たちで、飲食店の口コミサイトは、行った人たちはほぼ100%口コミを書いていました。一方、日本では100人に1人も居ません。口コミの信憑性が時々問題になりますが、多勢に無勢ということで、誰か1人が事実を書いたとしても、10人が反対の意見を書けば揉み消されてしまう。ヤラセは口コミに消極的な国にのみ起きる事象です。
コトラーの5A指標では、蝶ネクタイ型が理想だと言っていますが、5市場でテストした結果、日本は5市場すべてがドアノブ型でした。つまり、推奨だけしない。推奨が重要だということはコトラーだけではなく世界的に広く認識されているわけですが、残念ながら今の日本は推奨が出にくい環境です。
理想的な蝶ネクタイ型
ただし、これは時代とともに変わっていくと踏んでいます。今は20代・30代の若年層のSNSでの情報発信が非常に活発ですが、60代以降も70%がスマホを持つ時代になったので、これから変わっていくと思います。
若い方がキーパーソンに見えるかもしれませんが、今の日本の高齢層が情報発信に消極的な理由は、昔は欧米と違い、タイプライターがほとんど無くタイピングという習慣が無かったからです。しかし、今の40代以降はタイピングに慣れた人が増えているので、これからは若年層以外の情報発信頻度も増えていくでしょう。
現状、日本全体で見るとドアノブ型ですが、若年層に関してはそうとは言えない状況です。これから世代交代していくことによって、コトラーが提唱する蝶ネクタイ型へと変わっていき、理想とした推奨のされ方が日本でも出てくると思っています。マークプラス社の研究では、海外ではすでにそうなっていると聞いています。
理想的な蝶ネクタイ型に対して課題によって様々な形が現れる
----実際の5A指標の調査分析方法について教えてください。
コンサルティング統括のメンバーがお客様先企業へ取材し、その結果に基づいて調査を設計・分析します。今までと違うのは、お客様先企業の上位レイヤー層、会社の戦略を考える方たちに直接会って問題意識を探ったり、ご提案を申し上げたりすることになります。そこで出た戦略に従って、実際にどのようなメディアミックスで、どんなコンテンツを使って対応していくのか、トランスコスモス全社を活用していきます。
----課題が出たときに、DECサービスやBPOサービスで改善まで提案できるのがトランスコスモスの強みなんですね。
その通りです。もっと言うと、この診断サービス。コンサルティングではなく、あえて診断サービスと呼んでいますが、この診断サービスを単独で終わらせるつもりはありません。極端に言うと、診断だけで終わった場合は失敗だと思っています。トランスコスモスの強みは通常のコンサル企業と違って、ご提案した戦略を現実にプランへ落として実行してPDCAまで遂行する、その形を作り上げることです。そこまで行うのが我々のミッションだと思っています。
----診断だけでなく、推奨者が増えるところまで見届けることが重要であると。
5Aは測定指標ですから、継続的にPDCAを回していく必要があります。取り組みに従って情報が増えていくので、何が良くて何が悪かったのかフィードバックを頂いて、PDCAを回して、継続的にお客様企業に対する価値を増大させていくということが目的になります。
別の言い方をすれば5A単体では大きな付加価値を生むとは考えておらず、トランスコスモスのDECサービスやBPOサービスとの連携、マーケティングのエグゼキューション(実務)の中でいかに価値を大きくしていくのかが我々の一番の狙いです。
----最後に、2020年の展望をお願いします。
まず5A関連については、コトラーの研究機関でもあるマークプラス社との提携を、より強めていきたい。いまでも日本で独占的に彼らと仕事をしているわけですが、これを何らかの形で発展させていきます。
2つめはマーケティングの上流工程に関してツールを提供していくということに変わりありませんが、さらにロイヤルティマーケティングを促進するために、5A以外のツールをローンチさせたい。新たなCXと言っても良いと思いますが、ロイヤルティマーケティングを促進するためにはいろいろな手法や道具が必要になってきます。
すでに内製化を始めている方法として5Aパーセプション診断があります。これは、コトラーではなくMITの名誉教授でもあるグレン・アーバン(Glen L.Urban)の方法論です。これを用いると自社と他社の商品のポジションを、定量的に・正確に把握することが出来ます。この方法論を日本で提供している会社はほとんどないということを考慮して、我々のサービスに内部化しました。
こういうものも2020年はやっていきますし、これだけでなく、ロイヤルティマーケティングに役立つものをどんどん追加して、お客様に対するサービスの面を拡大していこうと思っています。
インタビュー後も「まだまだやりたいことはたくさんありますよ!」と話してくれた福島さん