「倉庫へのロボット導入などで働きやすい環境を」ECX本部が描くECのこれから
※本記事は2022年7月20日、7月25日にトランスコスモスSDGs委員会に掲載された記事を転載しています。 |
今回お話をお聞きしたのは、ECX本部 本部長の尾崎公紀さん。2000年代のネット通販黎明期からECの事業に携わってきたという尾崎さんの視点からみた業界の今と未来についてうかがいました。
尾崎公紀/本部 トランスコスモス執行役員 デジタルマーケティング・CE・コンタクトセンター統括 デジタルトランスフォーメーション統括 副責任者 兼 ECX本部 本部長。EC黎明期の2005年から20年近くにわたり、ECに携わる。常に未来を見据えながらよりよいECの未来を作ることをめざす。
EC事業のワンストップサービスを提供
−まず、ECX本部がどういった事業をされてるのか教えていただけますか?
ECX本部のXは、Experienceの頭文字です。トランスコスモスの事業は、コールセンターだったりインターネット広告事業だったり、ウェブ制作事業だったりと、機能を提供する部門が中心になっていました。それらを横軸で担い、EC事業者が必要としているサービスを一環して提供していくための部門として2013年に立ち上がりました。
特定の機能だけを提供するのではなく、マーケティングからECのプラットフォームを構築するシステム開発、バックオフィス、カスタマーサポート、物流まで、横断的に提供していることが特徴です。
−さまざまな企業のECを担っているということで、そのなかで感じている課題にはどんなことがありますか?
私たちのお客さまは小売ではなくて、メーカーが直接商品を作って販売するケースがメインです。とくにスタートアップや、大企業のなかでもまだ認知度の低い新商品が多いので、最初から大きな金額が動くことが少ないことは課題かもしれません。お客さまを地道に少しずつ育てていく必要があります。
縦割り体制の顧客をチームで支援
−育てるというのは、具体的に何をするのでしょうか?
テクニカルなところで言うと、マーケティングオートメーションツールをちゃんと入れて、データをしっかり取ること。そこから分析をして、どういうアクションをするべきかを考えることがまず重要になります。あとは、休眠ユーザーを掘り起こしたり、顧客単価を上げるためのキャンペーンを企画したりといったところから売上向上をめざす場合もあります。
いずれにしても、まずはファンになってもらわないと売上は上がらないので、そのための顧客接点をいかに多く持つか、それをいかに自動化していくかが重要になります。
−ECX本部の一番の強みや得意分野について教えてください
一番の売りは、顧客企業の複数の部門をひとつのチームで担当していることですね。多くのお客さまは、部門ごとに担当者が分かれていて、それぞれに意志決定者がいます。しかも、その部門同士に横の繋がりがないことも多いです。そこで、私たちがそれぞれの部門の担当者から聞いたことを落とし込み、横の連携がとれる体制を作っています。
この体制がきちんと作れていないと、たとえば「マーケティング部門がキャンペーンの実施を決めたけれど、そのために商品に同梱する印刷物が物流部門に届いていない」といったことが起こる可能性もあります。“川上でこれを実施したら、川下にはこんな影響がある”ということを明確にできるのが、私たちの体制の強みだと思っています。
サポートを続けることで、お客さま自身が知識を増やし、ツールの数字などを意識されるようになることも多いです。そんな“成長”を見ることができるのもECX本部ならではの魅力だと感じています。
倉庫業務の自動化も推進
−独自の倉庫を持っているとのことですが、倉庫業務で課題となっていることはどんなことでしょうか?
北柏にロジスティクスセンターがあり、お客さまの在庫をそこでお預かりしているのですが、今、関東近辺の倉庫はどこも人材不足が深刻になっています。そのため、省人化、ロボティックス化を進めていきたいと思っています。
−作業にロボットを使うということでしょうか? 具体的にお聞かせください
自動梱包機は3年前から導入していたのですが、先月、1ライン増設しました。ちなみにこれは、商品と納品書の内容をセンサーで確認して、箱に封をしてラベルを印刷して貼るというプロセスを自動化するための機械です。
さらに今後は、倉庫内の商品を運搬するロボット「t-Sort」も導入予定です。最初は15台のみですが、入れてみて効率が改善されるようなら増やすことも考えています。肉体的な負担の大きい作業を自動化することでいろいろな人が働きやすくなり、ノーマライゼーションも推進できるかなと思っています。
−倉庫業務は激務というイメージもありますが、働いている方に向けた環境づくりで工夫していることはありますか?
倉庫内にエアコンを入れたり、庫内に自社専用の休憩室を用意したりと、環境面は比較的力を入れて整備しています。他社だと倉庫内はエアコンがないこともあるのですが、夏は35℃を越える環境になり、その中で1日1万歩、2万歩歩くので、やはりエアコンは必要だと考えています。
今後はクライシスに備えた準備も必要
−尾崎さんは2005年からECに携わってこられたとのことですが、この20年のECでの変化はどのようなところだとお考えですか?
顧客とのタッチポイントが格段に増えましたね。自社のサイトもあれば、ショッピングモールもありますし、ライブコマースも注目されるようになりました。あと、ソーシャルメディアが従来のメールに代わるコミュニケーションツールになっている側面も大きいので、その運用についても考える必要があります。
コンテンツの内容に関していえば、メーカーや売り手側が押し付けるのではなく、口コミも含めて消費者が作り上げるコンテンツも活用していくことが必要になっています。商品の見せ方からコミュニケーションの取り方までどんどん変わってるという感覚がありますね。
−その中で尾崎さんご自身がこれからECはこう変化する、という見立てがあれば教えてください
ひとつはやはり、バーチャルリアリティの技術ですね。今もECのコンテンツは充実していますが、どうしても質感を確かめながら買うことはできません。それがもう少しリアルに近づく技術が今後4〜5年で出てくるのではないかと思っています。
もうひとつ、これは危機感をもって備えなければと思っていることが、宅配クライシスです。物流業界の2024年問題(※)とも大きくかかわりますがいわれていますが、ドライバーが定年を迎えて人材不足が深刻化したところにエネルギー問題も重なり、クライシスが起こるといわれています。
(※2024年問題とは、働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間となることによって発生する問題の総称。具体的には、労働時間の減少で、ドライバーの収入減や運送、物流業者の売上、利益の減少などの問題が起きると言われている。)
早ければ来年にもその状態は訪れると思っていて、そのときには、オンラインで購入して実店舗で商品を受け取るスタイルが増えていくのではないかと予測していました。現在は、アフターコロナで店舗来客が戻りつつある中で、このスタイルは既に主流になりつつあると考えています。それに対応できる機能やサービス強化が必要だと感じています。
−尾崎さんから見たECの面白さはどのようなところにあるのでしょうか?
やはり、物がリアルに売れていくことを一緒に体験できることですね。とくにECX本部では、上流から下流まですべてのプロセスに一貫して関わることができるので、マーケティングの施策がどのくらい売上に結びついたかといったことを実感しやすい環境があります。
ECである以上、最後は商品が売れるというところに結果を求められます。その目標をお客さまと共有して、結果を出していく面白さがECの醍醐味だと感じています。