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DataRobot徹底活用!AI民主化の「王道」に欠かせない伴走者とは?【AI Experience 2018 Tokyo】1/2

AIテクノロジーが日々進化し、技術調査やPoCといったトライアル段階を終え、あらゆる企業のあらゆる業務で誰もがAI/機械学習を活用する「AIの民主化」が現実となってきています。

2018年11月27日にウェスティンホテル東京で開催された「AI Experience 2018 Tokyo」は、「ここまで来たAIの民主化〜あらゆる業界のビジネスを急成長させているAIをここで体験!〜」というテーマを掲げ、話題の機械学習自動化プラットフォーム「DataRobot(データロボット)」を活用しAI/機械学習の民主化を実践している約40社の事例やサービスが集う一大イベントとなりました。当日の会場には2100人を超す来場者が押しかけ、注目度の高さと熱気が肌で感じとれました。

その基調講演ではDataRobot社のCEOであるJeremy Achin氏から、「AI化された世界で成功するためには、ソフトウェアでもコンサルタントでもデータサイエンティストでもなく、企業が持つ自身のDNAをAI DNAへと変えていくことが重要だ」という力強いメッセージが発せられました。

同イベントにプラチナスポンサーとして協賛したトランスコスモスは、DataRobotの「代理店」としてコミックスマート様をご紹介し、同社の大藪 真之祐氏から『レコメンドモデルを2ヵ月で実戦投入できた理由』をご講演いただきました。またDataRobotの「ユーザー」としても『AI民主化の階段を駆け上がる「掟破り」のアプローチ』と題したセッションを行い、マーケティング領域での活用事例や人材育成の苦労談をご紹介しました。

これらのセッションで語られた内容について、後者のトランスコスモスのセッションを中心に、前編「王道のアプローチ」/後編「掟破りのアプロ―チ」の2本に分けてレポートします。

DataRobotをはじめとしたAIソリューションの導入をご検討中の皆さまの参考となれば幸いです。


【スピーカープロフィール】


大藪 真之祐(おおやぶ しんのすけ)


コミックスマート株式会社/プラットフォーム部 プロダクト課/専任課長代理
京都府京都市生まれ。大阪大学大学院修了。 2011年にセプテーニに入社後、データアナリストとして、様々な領域の案件に従事。 2015年よりシステムエンジニアとして、グループウェアの開発を担当。 2017年コミックスマート入社。



東 直良(ひがし なおら)

トランスコスモス株式会社/DM・EC・CC統括 サービス開発本部/アナリティクスセンター統括部 機械学習推進部部長


2003年トランスコスモス入社。システム開発からキャリアをスタートし、分析領域へと拡張した、自称今風(?)のデータサイエンティスト。近年では、マーケティング領域における複数チャネルのデータを統合した解析を専門としている。DataRobotから自然言語処理系までAI導入プロジェクトにも多く参画。2018年度上智大学コミュニティ・カレッジ講師他、社内外における講演・講師経験多数。


目次[非表示]

  1. トランスコスモスとDataRobotの関係
  2. コミックスマート様におけるDataRobotの活用事例
  3. AI民主化の「王道」とは?
    1. 「王道」とはシチズンデータサイエンティストを社内に育てること
    2. AI民主化に対する「期待と現実」
    3. シチズンDSの育成方法
    4. 「王道」は「ヒト・モノ・時間」への覚悟と「伴走者」が必要

トランスコスモスとDataRobotの関係

トランスコスモスはDataRobotの「販売代理店」でもあり「ユーザー」でもあるという、2つの顔があります。

トランスコスモスはコールセンターやEC、そしてWebやLINEなどのデジタル世界で、お客様企業のマーケティングコミュニケーションの最適化をお手伝いしています。そのようなコールセンターやEC・デジタル事業の強化にDataRobotを活用しており、実際の社内での月間アクティブユーザーは20~30名、モデルは200個前後(多いときでは250~300個)で、まさに「ヘビーユーザー」としてフル活用している状況です。


トランスコスモスでは、販売代理店としてだけではなく、自社サービスの強化にもDataRobotを活用している


一方で、トランスコスモスは、DataRobotの「販売代理店」として10社以上のお客様企業に導入いただいております。そこで本イベントのランチセッションでは、DataRobotの「代理店」として、コミックスマート様におけるDataRobotの導入と活用の事例をご紹介しました。

コミックスマート様におけるDataRobotの活用事例

『超速!レコメンドモデルを2ヵ月で実戦投入できた理由(ワケ)』と題したこのセッションでは、コミックスマート株式会社のプラットフォーム部で専任課長代理を務めていらっしゃる大藪 真之祐(おおやぶ しんのすけ)氏にご登壇いただきました。

コミックスマート様は160作品以上の様々なジャンルのオリジナルマンガを掲載しているマンガアプリ「GANMA!」を運営しています。大藪氏からは、コミックスマート様のこの「GANMA!」における作品の閲読率を上げるために、DataRobotでレコメンドモデルを構築し、短期間で成功をおさめた事例をご説明いただきました。従来手法に比べ、レコメンド作品の閲読率が7pt向上し、新規ユーザーの翌週アプリ来訪率が1pt向上したそうです。


コミックスマート社では、DataRobotを活用した作品レコメンドシステムで、閲読率が7pt向上、来訪率が1pt向上した


この事例の驚くべきポイントは、2つあります。

まず、大藪氏はもともとシステムエンジニアであり、分析や統計に詳しいデータサイエンティストではなかったという事実です。

大藪氏がDataRobotを選んだ理由は、「社内にデータ分析のリソースが足りず、自分自身も機械学習に詳しいわけでもない状況で、機械学習を自動化してくれるDataRobotというツールにめぐり合い、しかも作成したモデルをシステムに実装(デプロイ)しやすく、APIを通して簡単に利用できる」からだそうです。

大藪氏のように、もともとデータサイエンティストでない人でも、実際にAI/機械学習を業務に活用し成功を収めることができるわけです。むしろシステム開発経験者である大藪氏だからこそDataRobotのAPIを駆使しスムーズにシステム実装できたともいえます。まさに「AIの民主化」の典型的な成功事例だといってよいのではないでしょうか。

もうひとつのポイントは、たった2ヵ月間という短期間でモデルを実戦投入し成果を上げたというスピード感にあります。AI/機械学習の実務経験者ならばわかる話ですが、この事例の内容を実現しようとすると、通常は半年かそれ以上の期間を要するからです。

大藪氏に、短期間でできた理由を訊ねると、「どんな目的で、どんなデータを使って、どんな方法でモデルを作るのかを、『契約前に』DataRobotやトランスコスモスとの3社の事前協議でだいぶ詰めた」ことだと回答されました。逆に、大藪氏が最も苦労したことを訊ねると「ある意味、DataRobot をなかなか導入させてくれないことだった。早く買いたいと言っているのに売ってくれないという経験は初めてだった」と苦笑されていました。

とはいえ、DataRobotの導入前にその活用目的をしっかり協議・整理し、事前に必要なデータの設計や加工に時間を掛け熟考していたことが成功につながったことは間違いありません。

AI民主化の「王道」とは?

「王道」とはシチズンデータサイエンティストを社内に育てること

つぎに、DataRobot の「へービーユーザー」であるトランスコスモスとして、DataRobotを使った「AIの民主化」の「王道」のアプローチについてご説明したセッションの内容をご紹介します。

このセッションのスピーカーを務めたのは、トランスコスモス 株式会社 機械学習推進部の部長 及び トランスコスモス・アナリティクス 株式会社の首席データサイエンティストを務める東 直良(ひがし なおら)です。東は、システム開発からキャリアをスタートさせ、10年ほど前からデータ分析畑でいち早く機械学習に従事してきました。その経験をもとに、トランスコスモスではDataRobotを推進する立場にいます。


セッションの冒頭で自己紹介をする東


突然ですが、「AIの民主化」と聞いてみなさんは何をイメージしますか?

東は「AIの民主化の王道は、シチズンデータサイエンティスト※を社内に育てること」と説明しました。
※専門家ではないがAIデータ分析を駆使できる人材

前述のコミックスマートの大藪氏のような、優秀なシチズンデータサイエンティスト(以降「シチズンDS」)を社内で育成し増やすことができれば、AIの導入・活用のハードルを大きく下げることができます。しかし、シチズンDSを育成することは容易ではありません。

AIの民主化を説明した図。社内でAIを扱える人材を増やすことができれば、導入へのハードルが格段に下がる。

AI民主化に対する「期待と現実」

■シチズンDSへの過剰な期待

東はAIの民主化が進む一方で、このシチズンDSへの過剰な期待」がピークを迎えつつあると説明しました。

そのことは、ガートナーが発表した「先進テクノロジーのハイプサイクル※2018年版」でも指摘されており、この過剰な期待のピークはいずれ終息へと向かい、やがて幻滅 期を迎えると予想されています。

※米ガートナー(Gartner)の先進テクノロジーハイプサイクル(Emerging Technologies Hype Cycle)は、ビジネス戦略の担当者や研究開発のリーダーなどが先進テクノロジーのポートフォリオを策定する際に考慮すべきテクノロジーとトレンドとして、同社が業種横断的な視点から分析を行い作成したグラフである。
ハイプサイクルは、テクノロジーの普及度やトレンド遷移を示すガートナー独自のグラフであり、テクノロジー普及のプロセスを、黎明期、過剰な期待のピーク期、幻滅期、啓蒙活動期、生産性の安定期の5段階に分け、それぞれのテクノロジーをグラフ上にプロットする。(引用元:https://it.impressbm.co.jp/articles/-/16586)


ガートナーが発表した、先進テクノロジーのハイプサイクル2018年版(出典:ガートナー ジャパン、2018年8月)


では、シチズンDSとそれを支えるDataRobotへの過剰な期待とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

過剰な期待と現実の例

■シチズンDSが行う工程はたくさん存在する

上記の図、右を見てください。DataRobotを活用する上でシチズンDSに求められるスキルは、「ビジネス課題を見つける」「必要なデータの抽出を行う」「DataRobotを使った予測モデルを実装する」「改善施策への落とし込みと効果測定」など、広範囲に及ぶことが分かります。

-東-


『①の例は、DataRobotをツールとして操作できるだけでは足りないということを表しています。ツールとして使いこなせると同時にビジネス課題を見つけ、その課題をDataRobotでどうやって解いていくかを考える部分は、あくまでも人間の仕事なのです。


②の例は、データ収集も人間の仕事だということを表しています。例えば、「明日の店舗の売り上げを予測しよう!」となった場合に、「じゃあ、どんなデータを引っ張ってくるか?」を考えるのも人間が行う仕事なのです。


つまり、シチズンDSへの過剰の期待の本質は、「DataRobotのようなAIを入れればすぐに分析ができる」や「シチズンDSはツールを入れるだけで育つ」などの誤解から来ています。


人間がやることはまだまだたくさんあり、大事なのは人間と機械が協業していくことなのです。』


人が行う必要がある範囲と、DataRobotができる範囲をまとめた図


それでは、一人前のシチズンDSを育成するには、どのような方法があるのでしょうか。

シチズンDSの育成方法

■必要なのは経験

一番大切なことは、頭でっかちの知識の詰め込みではなく、自分の手を動かして機械学習を体験することです。トランスコスモスでは、シチズンDS育成のための有償の研修プログラムとして「Data Science Experience Program」 というものを用意しています。この研修は、実際のデータとDataRobotを使ったワークショップを通じて、AIや機械学習を概念論ではなく体験を通じて学ぶことができます。しかし、東は、これらの研修を受講すれば確かにシチズン が、一人前(=「人がやるべき範囲」をきちんと考えられる)のシチズンDSになれるわけではないと忠告しました。

トランスコスモスが行っているAI研修プログラム。しかし、この研修を受けるだけでは一人前のシチズンDSは育たない。(参考URL:https://www.trans-cosmos.co.jp/company/news/171108.html


過去に行った社内外での研修や人材育成支援の経験を踏まえ、シチズンDSを育てる為に他に必要なものを、東はこのように説明しました。

-東-


『それはズバリ「経験」です。場数が大事ということではありません。「一連のプロセスの経験と、その成功体験を積み上げること」が、シチズンDSを育てる王道の方法です。』

しかし残念ながら、そこには更なる別の問題が存在します。


シチズンDSの育成に必要な「経験」の一連プロセス


■立ちはだかる「3ない(+1)問題」

AI民主化を進めるうえで、「経験」以外のハードルとして「3ない問題」と呼んでいるものがあります。

それは「データがない」「分析力がいない」「開発力がない」という状況です。

「3ない問題」


■データがない
例えば「購買意欲の強いユーザーを予測する」時に、いざデータを集めようとしても「そもそもデータが蓄積されていなかった/データ量が足りない/データが使いやすい形になっていない」という状況。


■分析力がない
例えば「店舗の売り上げを予測する」時に、「売り上げに関係する要素(天気/曜日/配布したチラシの枚数/打ったマス広告の数 など)」にアタリを付けるためのドメイン知識や実務経験がないという状況。


■開発力がない
予測モデルを構築したあとに、それを実際の運用やシステムに組み込み仕組み化するための開発を行う必要があるが、「AIや機械学習を理解した上でシステム開発をできる人がいない」という状況。

しかし、一番の問題は「当事者意識」だと強調しました。
例えば「現場」で起きている問題を「分析部隊」などの別の部署が解決しようとしても「現場レベル」で解決する(つまり、成功体験に至る)ことは難しいというのです。


シチズンDSの育成の前に立ちはだかる「3ない(+1)問題」。本当にないのは「当事者意識」。

■「3ない(+1)問題を乗り越えるには「伴走者」が必要

この「3ない(+1)問題」を解決するためには、育成を正しい方向へと導いてくれる存在、例えるならば「伴走者」が必要になります。

伴走者には具体的に、下記の図のようなスキルが必要になるので、ここからはトランスコスモスが「伴走者」という前提で話を進めます。


伴走者が行うべき内容。全てを社内で完結させるには、ハードルが高い。


それではこの「伴走者」が、育成をどのようにサポートするのか見ていきましょう。

まずトランスコスモスでは、シチズンDSの育成ルートを以下のように推奨しています。この育成ルートには、2つのポイントがあります。


トランスコスモスが推奨しているシチズンDSの育成ルート


【シチズンDS育成ルートのポイント】


ポイント①育成初期は少人数から始める


最初から大人数を育成し始めると、失敗する可能性が非常に高くなってしまいます。
1期生は2~3人の育成から始めます。その次に2期生として2~3人追加で育成し、5~6名のチームが出来上がった段階で、現場側にシチズンDSを育成して行きます。


ポイント②候補生を選ぶ部門は「横ぐし部門・データに強い部門」が良い


AIの民主化を目指すのであれば、候補生は「横ぐし部門」且つ「データに強い部門」が望ましいとされています。典型例で言えば、情シスやIT部門、経営企画部門がそれに該当します。

※「伴走者」のサポート範囲について ここでの「伴走者」が行うのは「分析の代行」ではありません。 あくまでも「伴走者」として、お客様企業の中で分析を行っていただく為のサポートということで、具体的には「週次ミーティングを中心としたコンサルティング」を提供しております。​​​​​​​


トランスコスモスは「伴走者」として、「週次ミーティングを中心としたコンサルティング」を提供

「王道」は「ヒト・モノ・時間」への覚悟と「伴走者」が必要

ここまで「王道のアプローチ」を見てきましたが、それにはデータサイエンティスト候補の確保、インフラの整備、万全の態勢で運用を始めるために必要なある程度の時間など、「ヒト・モノ・時間」への相当な覚悟と「伴走者」が必要になることが分かりました。 しかし、このような覚悟を持てるお客様企業ばかりではない、というのが現実です。では、そのような場合「AIの民主化」をどのように進めていけばいいのでしょうか。


民主化の「王道」まとめ




前編はここまで。

後編では、「王道のアプローチ」に立ちはだかる「ヒト・モノ・時間」というハードルを回避するための、「掟破りのアプローチ」についてレポートします。

この記事の後編はこちら


安河内優子
安河内優子
trans+ではUI/UX(サイト構築・デザイン・分析)を担当しています。たまに記事も書いてます。趣味は音楽と読書、それからヨガ。仕事のモットーは「創意工夫」。どんな状況でも、楽しむことを忘れないようにしたいです。

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