
AI時代の人間の仕事は「決断する事」――Web広告業界のトレンドから見えてきた、働き方の“少し先”って?
日本では「AIブーム」が叫ばれて久しいですが、2019年、ソフトバンクグループの孫正義社長はそんな日本の現状を、AIの研究開発および現場での利活用に伸び悩みがみられる「AI後進国」と評しました(※1)。
いよいよ2020年、日本では次世代通信規格「5G」の商用サービスが本格始動します。今まで以上にデータ流量が増加しAIによる処理が不可欠となる「5G元年」を迎え、ビジネスの現場で本当に実のあるAIの利活用に向き合うにはどうすればいいのでしょうか?
そこで、Google・Facebookなど大手テクノロジー企業が有する最先端AI技術を余さず活用している「Web専業広告代理店」の現場に取材を実施!
トランスコスモスのインターネットプロモーションサービス本部で“Web広告運用のクオリティ担保”をミッションとし、AI技術等を駆使したシステム開発を行う現場メンバーに、業界トレンドの変遷・現場におけるAIへの向き合い方・そこから生じる課題/解決策、そして働き方の未来像まで聞いてきました!
■インタビュイー
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高橋 洋祐
トランスコスモス株式会社 |
Web広告運用のクオリティ担保をミッションに、施策検討から実行までを担う。 |
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橋本 淳市
トランスコスモス株式会社 |
2014年 トランスコスモステクノロジーズに新卒入社し、2019年にトランスコスモスに転籍。Web広告を配信して得た膨大なデータを、AI技術等を駆使してわかりやすく、かつ高速でレポート化するシステム開発などを担当。 |
目次[非表示]
Web広告の業界トレンド。これまでと、これからと。
――ここ数年で業界トレンドが大きく変わっていったかと思いますが、お二人はどのように感じていらっしゃいますか?
高橋:Web広告業界のトレンドは、96年頃のWeb上の広告枠を買い取って広告を表示させる「純広告」から始まり、2008年頃から広告枠をより有効的に配信する「アドテク広告」へと移り変わっていき現在に至ります。
今後は、人間が手を加えるより高速で、かつ正確に広告運用効率を高める手段として、「AI」にトレンドの中心が移っていくと思います。
Web広告トレンドの変遷
「純広告」全盛期のWeb専業広告代理店は、「お客さんの要望を聞いたら、広告代理店と媒体社との仲介役となる企業(メディアレップ)に要望を伝え、メディアレップが持ってきた純広告の広告枠をお客様に提示し、受注が決まったら配信する」といった、いわば御用聞きとも捉えられるような役割でした。
その後、「アドテク広告」にトレンドが移るきっかけとなったのは、Googleが提供するディスプレイ広告「GDN」が登場してからだと思います。アドテク広告では、多くのWebサイトを媒体として広告配信を行います。広告配信を通して得たデータを元に、特定の興味関心を持っている層にだけ広告配信できたり、配信結果を即時可視化できたり、純広告やテレビ・新聞といった従来型広告にはない、独自の強みを持ちました。この強みが広く広告主に受け入れられ、トレンドの中心はアドテク広告に移り、業界の関心は一気に広告配信から得たデータをどう活用すべきかに向きはじめます。
――なるほど、アドテク広告の登場によって「データそのもの」への意識が高まったんですね。具体的にどう活用する事になったんでしょうか?
高橋:Web広告を配信すると、その広告に反応したユーザーのweb上の行動データが広告配信を行った媒体側に集まります。結論から言うと、ここで発達したのがいわゆる機械学習・AIです。
従来、集まったデータからユーザー行動の傾向を分析し、その結果を広告配信に活用するのは広告運用者の役割の一つでした。ですが、昨今では広告媒体側に集まったデータをAIにインプットする事で、ユーザーの行動パターン・法則を学習させ、学習データをもとに最も広告効果が高まるユーザーに向けて広告配信を行うようになりました。これにより、人が行うより素早く、かつ正確に、広告成果を向上させる事が可能になったのです。自動最適化を目的として媒体に機械学習を取り入れた先駆け的存在がGoogle社やFacebook社です。
このように、高い広告効果が得られるアドテク広告には学習データと予算が潤沢に集まり、データとお金という、どちらもAIの発展に必要な要素を持つアドテク業界は、AI技術の進歩に大きく貢献しました。もちろん、当社も広告運用においては、Google社やFacebook社などの持つAI技術を存分に取り入れて運用を行っています。ちなみに、アドテク業界で発展したAI技術は今、その技術が人材業界や農業といった他の業界でも活用されています。
この先もAI技術は引き続き発達して、将来的な成果の予測や「改善ポイント」のサジェスト、およびそれをシステム側に反映させるアクションまで、人が判断・決断をするために必要なアウトプットが自動的に行われるような仕組みができていく。人間側のタスクは「決断する」事に重きが置かれるようになってくると思います。
現場でのエピソードを交えながら熱く業界トレンドを語る高橋
橋本:エンジニア視点から見てもそうで、AIを活用したツール開発はますます活発になると思います。たとえば「どの媒体の入札額を上げるべき」といった、広告プランナーに示唆を与える自動アドバイス機能や、それを自動的にお知らせしてくれるアラート機能、媒体をまたいだ予算アロケーションをシミュレーションするためのシステムなどが考えられます。
この業界ではビッグデータ処理を高速化するプログラム基盤“Hadoop”など、最先端の技術が駆使される「AI」や「クラウド」分野に深く携わる事ができますし、この先ますますAIの利活用はあたりまえのものになっていくな、と直感的に感じますね。
――なるほど、業界ではすでにAI活用への取り組みが盛んなのですね!こうした直近のトレンドの影響はWeb広告業界の現場ではどういった形で現れているんでしょうか?
高橋:それはもう、広告媒体が増えた分だけその運用ノウハウを勉強し、Web広告予算が増えた分だけ広告入稿やレポーティングなどの作業をして…といった具合に、単純に業務量がどんどん増えていきましたね…。広告プランナーは、本当にやるべきことにリソースをシフトしていく事に注力しなきゃパンクしてしまうような状態で、各社、本当にやるべきことは何かを見定めてAI活用に取り組んでいます。
トランスコスモスの場合は、提案や分析などの思考系業務にリソースを集中させるためにAIを活用して一部業務を自動化するなど、業務効率をあげるツール開発に最注力しているところです。
まずは作業負荷の高い業務から自動化!「戦略立案」にリソースを集中させるためのファーストステップ。
――トランスコスモスでは去年11月に全自動の広告レポーティングシステムである「REPORTAS(レポータス)」を独自開発しましたが、これはやはりこうした流れを受けて開発したのでしょうか?
橋本:そうですね。市場の動きがとてつもなく早い業界なので、新しい広告ソリューションは次々と登場してきます。
それにしっかりと適応するためには、無数にあるWeb広告の配信結果を一元管理し、新しい媒体が登場したらすぐに機能追加したり、システムに連携していく必要があります。これらの動きを、コストを抑えつつスピーディに実現していくには自社開発だ!ということでインターネット広告全自動レポートシステム「REPORTAS(レポータス)」を開発しました。
参考:『トランスコスモス、国内最大規模のメディア連携数を誇るインターネット広告全自動レポートシステム「REPORTAS(レポータス)」を独自開発』
広告プランナーはこれを活用することで、広告レポート作成に発生する工程を全自動化でき、工数を大幅に削減することができます。そして工数削減した事で空いた時間を、いわゆる「人間が決断する」業務、例えばお客様企業のマーケティング課題の分析や戦略設計などに注力させ、広告運用のPDCAサイクルを高速化することが可能になります。
また機能面でも、連携している媒体・ツール数が国内最大級であるという大きな特徴があります。(アフィリエイト含む48媒体・6ツール(2020年3月時点))
そのため、多数の媒体・ツールを利用している場合でもワンストップで横断的なレポートを作成でき、スピーディに成果把握ができます。
また、今後新しい広告媒体・ツールが出てきても、社内のバックアップ体制により素早く連携することができます。
「REPORTAS(レポータス)」の特徴を語る橋本
新たに機能追加する場合も、プランナーの成果把握までのリードタイム短縮を目的としています。なかでも特に僕がこだわって開発したのは、動画広告のレポートで動画内の各シーンが分かるよう、時間毎に切り取った画面キャプチャが出るようにした事です。
動画広告には「冒頭だけ同じ映像だけどそれ以降のシーンは異なる」というようなものが演出意図の都合で複数用意されていることがあるのですが、その場合の広告レポートって読み解きにかなりの工数がかかってしまうんですよね。
だからプランナーからも「レポートを見た時、どれがどのストーリーかひと目見ただけでわかるようにできないか」という要望が上がっていました。そこでそれをどうにか解決できないかと、画面キャプチャ出力機能を開発することにしました。
当初この機能は技術的に難しいんじゃないかと思っていたのですが、いざやってみたら技術的に可能で、想定通りにキャプチャ取得できた時は個人的にちょっと感動しました(笑)
また、広告プランナーからも「画期的な機能追加だ」と好評でした。
実際のレポート。サムネイル、5秒目、0%、25%、50%、75%、100%の順でキャプチャが表示されている
社内で新しいモノ・コトを浸透させる時によくある『現場の反発』。あえての逆張り戦略が有効だった?
――作業工数を減らし、より思考系業務に注力するために開発された「REPORTAS(レポータス)」ですが、社内の運用現場にはスムーズに導入できたんでしょうか?
高橋:いえ、導入当初は非常に苦労しましたね。特に一番最初の「まずは使ってもらう」の壁が厚かったです…。やっぱり広告プランナーにとっては、これまでの馴れた方法でレポートを作る方が早いと思われていて。
とはいえ、みんなレポート作成作業の大変さを共通認識として持っているので、もちろん強制的に使わせる手もありましたが、無理やり押し付けた所で「やらされ」感から嫌気がさして、いずれ使われなくなってしまうような気がしたんです。だから社内で「REPORTAS(レポータス)」を推進するにあたって、『ツール利用の強制は一切せず、あえてこちらから「動かない」』、つまり価値あるものを作って、その存在に気づいてもらえたら、要望に対して真摯に応えていくという活動スタンスを徹底しました。
――思い切りましたね!「強制しない」という活動スタンスを定めたあとは、どう推進していったんですか?
高橋:「REPORTAS(レポータス)」を使いたい!と自主的に申し出てくれた案件が幾つかあり、まずはそれらの案件でトライアルとして使ってもらいました。すると、それを使ったメンバーから「もっとこんな風にできませんか?」という要望が戻ってくるようになったんですよね。
そのような社内のアーリーアダプター的存在の人たちと「改修要望を伝えてくる⇒それを実現して戻す」という事を繰り返していたら、徐々にレポータスの良い噂が社内で広まっていき、「使いたい!」と言ってくれる人が増えていきました。
結果、現在では9割近くの案件で導入することに成功し、案件の中にはレポート作成工数を80%削減したという事例も出てきました。
現場からの相談にとことん向き合って、そしてきちんと応える。といった、信頼感を得るようなサイクルが社内でうまく回ったのかなと思います。
橋本:「REPORTAS(レポータス)」開発者からすると、利用者のフィ―ドバックを直接もらえたのは面白かったですね。
通常、新しいツールを開発する場合って子会社や外注で制作してもらうことが多いんですが、そうなると現場で使っている人の意見を開発者が直接もらう事って難しいんですよね…。ですので現場からの意見の吸い上げやその実現をスピーディに反映できるというのは、自社開発のメリットとして非常に大きいと思います。
――最後に、これからの広告代理店のあるべき姿や展望を教えてください。
高橋:お客様企業と同じ目線に立ち、ゴールに向けて共に走る“併走者”となる事が大事だと思っています。
お客様にとってのミッションはビジネスを成長させる事です。その施策の一つに「広告」があり、より良い広告配信を行うための手段の一つに「AI」があります。
であれば、僕たちは広告を含む様々なマーケティング手法と、それをサポートするツールをAIなどの最先端テクノロジーを用いて開発しながら、総合的にフォローができるようになっていくべきだと思っています。お客様はいい意味でわがままですし、うちもいい意味で頑固ですからね(笑)
Webマーケティングのプロフェッショナルとして、あらゆるニーズにトータルでこたえていきますよ!
――ありがとうございました!
※1 日本がAI後進国なのは“モノづくり至上主義”のせい――SBG孫社長が指摘 東大とタッグで挽回目指す
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1912/06/news156.html