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【徹底討論】“疾患啓発”の近未来像 ~多極重層化するペイシェント・ジャーニーにメーカーはどう対応すべきか~

疾患に関する情報を、正しい内容で生活者に届ける「疾患啓発」。

このような情報発信によって、患者や疾患予備軍である人々に対し自分自身がその「疾患」の対象者であるということに気づかせ、またそれによって早期発見と診断・治療が行われ、予防や転帰の改善につなげることが可能になります。

近年はインターネットの普及により、このような情報を生活者が容易に得られるようになりました。しかしその一方で、疾患や治療の情報が雑多にあふれかえってしまっている現状があり、生活者へ適切な情報を伝えることが難しくなっています。

そのような中、「疾患啓発」における活動はこれからどうあるべきで、近未来を見据えて何を考えるべきなのでしょうか。

国内最大級のヘルスケアプラットフォームを展開しているメディカルノートの太田様と、トランスコスモスの本多に、疾患啓発の近未来像について話を聞いてきました。


■プロフィール

メディカルノート メディア事業部
事業責任者 太田 修貴 様
大手検索サービスにて、広告のプロダクト開発等に従事後、クレジットカード/不動産などの事業領域で、WEBマーケティング全般を基軸として事業全体のグロースに従事。メディカルノートでは、医療情報を活用したマーケティングソリューションの事業責任者として、各企業と共にペイシェントジャーニーに即した持続可能な患者向け啓発の展開をサポート。


トランスコスモス株式会社 営業統括
エグゼクティブマネージャー 本多 功征
住友電気工業、参天製薬、JMDC、MDVを経て現職。製薬メーカーでの勤務を通し課題認識したリアルワールドデータ(RWD)の収集・標準化・解析・利活用を一元的に事業化してきた。その後、わが国初となるRWDをエビデンスとした革新的なH&BC製品の製造販売事業を目的に会社設立。代表取締役就任。17年ぶりに第二種医薬品製造販売業の承認を取得するなど一貫して新事業の事業化を実現してきた。専門領域は、マーチャンダイジング、リアルワールドデータサイエンス。


目次[非表示]

  1. これまでの疾患啓発とその課題
  2. これからの疾患啓発とは
  3. 製薬・ヘルスケア関連企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する「疾患情報発信支援サービス」

これまでの疾患啓発とその課題

——近年、疾患啓発を取り巻く環境には大きな変化が表れていますが、まずはこれまで疾患啓発がどのような観点で取り組まれていたのか教えてください

本多:
まずは今までの経験を踏まえて製薬企業のマーケティングについて回顧してみますと、医薬品産業の特徴は、異なった科学の成果・異なった技術を融合させるところにあります。

自然科学としての生物学、化学、薬学、工学、物理学、植物学などの諸科学やその応用技術から新医薬品の候補を選び出し、前臨床試験で医薬品としての可能性を確認したうえで、医学のもとで臨床試験を経て新医薬品として上市されます。

そして、医薬品のマーケティングは各種の分類方法がありますが、テクニカル・タームとして統一した基準はありません。その分類基準をあげるとすれば「疾患別」、「薬効別」、「物質別」、「作用機序別」、「構造別」でしょうか。

また、医薬品は医療サービスのための業務用資材として捉えられていて、医師が処方し、薬剤師が調剤、そして患者自身もしくは医師・看護師などの手によって患者さんに用いられていきます。

つまり、患者さんの存在がベースにあって、それに製品群が加わって、金額または使用数量で把握される市場が形成されていきます。これは一つの断面でしかありませんが、私はこういった過程において製薬企業のマーケティングの本質を10年以上に渡り理解してきたつもりです。

したがって、医薬品マーケティングの一つでもある疾患啓発の“これまで”においては、Rx(処方薬)であれば薬局・薬店に啓発冊子を中心としたさまざまな資材を届けていたように記憶しています。また、マスを活用したDTC(※1)もあったと思います。そしてOTC(※2)であれば、ドラッグストアを介して生活者へ届けるという活動でした。これらは十分ではないにしろ、情報を発信する側が情報を占有していたということが大きかったように思います。

(※1)DTC…Direct to Consumerの略。医療用医薬品の直接的な宣伝ではなく、疾患啓発広告や治験広告、製薬産業広告などのことを指す。

(※2)OTC…Over The Counter の略。薬局・薬店・ドラッグストアなどで処方せん無しに購入できる一般用医薬品


——太田さんは様々なカテゴリの製薬業者やヘルスケア関連企業とお取組みをされているかと思いますが、いかがでしょうか?

太田:
Rx領域におけるマーケティング施策では、「患者さん向け施策」と「医師向け施策」が別物として実施されることが多く、その効果も見えにくいという状況でした。

しかしながら、昨今ではデジタル化に伴い、患者さん向け施策が増えています。そのため患者さんが自ら、何か疑問を持てばすぐに検索をしてデジタル上で調べるという、患者さん中心の世界に変わってきています。
このような変化に対して企業様がどう感じているのかを聞く機会が多くなっていますが、各社少しずつ意識が変わってきており、疾患啓発へのニーズは増えてきていますね。


本多:
そうですね。こうやって振り返ってみると、これまではペイシェント・ジャーニーやペイシェント・エクスペリエンスという観点は薄かったと思います。また当時は、疾患啓発活動を行う際の明確な指針や留意点が存在しておらず、実務担当者はあらゆる方面から情報を入手して試行錯誤をしていたのではないでしょうか。


——ではそのような状況に対して、疾患啓発にはどのような課題を感じていますか?

本多:
当たり前のことではありますが、その疾患啓発が“疾患喧伝”になってはならないという点は常に課題認識していました。

先ほどお話した通り、少し前まではマスやMRを介して医療機関や薬局・薬店、ドラッグストアに冊子やポスターなどで疾患啓発活動をしてきました。
しかし近年はインターネットや情報技術の発展、普及によって一般の方に対しさまざまな情報を簡単に伝えられるようになった一方、疾患や治療の情報が玉石混交の状態になってしまっているのが現状です。それに加え直近では、新型コロナの影響によって製薬企業、医療機関、双方ともデジタルチャネルへの対応が進んでいます。

つまり、疾患啓発の手法や方法は高度化しているのではないかなと。従来の情報提供とは異なる手法が求められています。


太田:
あとはやはり「患者さん向け」と「医師向け」という施策の分断によって疾患啓発の効果はどれくらいで何につながったのか、というのが不明瞭な状態でした。たとえばTVCMや新聞で実施した施策が、どう事業に戻ってきているのか?というような事が見えにくいのが実態です。

しかしながら患者視点で見ても、受診して終わりなのではなく、処方を受けて治療をしていくというところまで考えていくべきです。

今後は、患者さんの診察から診断、治療というペイシェント・ジャーニー(一連の流れ)と、医師による診察を分断せず一連で考えるべきで、これはマーケット全体の課題ではないのでしょうか。


——製薬会社やRx専業、企業など、それぞれが目指すべきKPIというのは変わってくるのでしょうか?

太田:
そうですね、もちろん各企業のなかでも製品、ブランド、プロダクトレベルで置かれている状況はさまざまなので、マーケティングの意味合いでは患者さんが興味を感じているところにいかにリーチできるかというのが重要になってきています。


■従来の患者向け施策の課題

これからの疾患啓発とは

——では今後の疾患啓発活動はどうあるべきでしょうか?

本多:
私個人の見解としては3つの軸があると思っています。

まず1点目は、製薬会社やヘルスケア企業の担う役割変化です。
製薬企業は事業領域の再定義が活発に行われていますが、今後は従来の「医薬品の供給」という役割から、「治療プロトコル全体での医療技術の供給」へ拡大していくと考えています。ですので、シックという領域だけでなく、未病・予防、プライマリー、シックケア、予後というペイシェント・ジャーニーを俯瞰した疾患啓発が重要になってきます。

2点目は、やはり取り巻く環境の劇的変化があります。
直近であれば、新型コロナの影響によって、製薬企業と医療機関、双方ともにデジタルチャネルへの対応が進んでおり、従来の情報提供とは異なる手法が求められています。また、疾病に対する新規治療法や対処法は日を追うごとに複雑かつ詳細になってきています。

しかしながら、患者さんやそのご家族、一般の方がインターネット等で入手する様々な医療情報の中には根拠に乏しい内容も混在しており、場合によっては治癒の遅延や症状の悪化につながりかねません。製薬企業、ヘルスケア関連企業は、病気に苦しむ患者さんに対して適切かつ十分な疾患情報を速やかに提供することで疾患を認知させ、よりよい治療の選択を患者さんご本人が参加できるよう努めなければなりません。

3点目は、疾患啓発活動の対象が、医薬品だけではなくセルフホリスティック製品やオプティマルヘルス製品にも拡がっていくと考えています。したがって、広義での疾患啓発活動は、食品群を含むヘルスケア関連企業のマーケティングにおいて今後重要な指標になっていくのではないでしょうか。



——なるほど。太田さんはこのあたりは実際に体感されているのではないですか?

太田:
そうですね、業態によって考え方に違いがあるにせよ、ペイシェントセントリックという視点で患者さんをどのようにサポートしていくかはこれからも重要になってきます。病気に気づき、いかに早いタイミングで自分の状況を理解してもらうか。また、受診などをただの点ではなく一つの流れとしてとらえることが重要だと思っています。


本多:
まさにその通りだと思います。ペルソナとの違いでもありますが、治療や療養の場面でのペイシェント・エクスペリエンスを重層化することによって、ペイシェント・ジャーニーは前進していきます。
ペイシェント・ジャーニーは患者さんの状態を時間軸と行動心理学的な軸での連続的な変化を合わせて検討していくことが可能です。


太田:
今後は、検索を入り口として受診先情報を提供し、その後の受診の流れ、治療の流れを『患者の流れ』としてデータ分析する必要があると思います。
データによって、患者さんの行動や治療、そして治療動態を時系列で追っていけるようにしていくべきです。
また、受診では医師(ステークホルダー)に対して何を提供していくのか、いかに一つのマーケティングとして捉えていけるかが重要ではないのでしょうか。


本多:
そうですね。未病・予防から予後までのペイシェント・ジャーニーを俯瞰した疾患啓発が必要になっていて、今まで以上に丁寧で細緻なアプローチが求められています。
ペイシェント・ジャーニーの本質は、各患者さんを心理学的、経済学的、社会行動学的に捉えることが前提ですが、多くの医療機関や製薬企業においてペイシェント・ジャーニーが活かされているとは言い難く、患者インサイトは不十分なのではないのかと思います。

ペイシェント・ジャーニーは多極重層化しています。正しいペイシェント・ジャーニーを作ることは、単にアウトカムやペイシェント・エンゲージメントが向上するだけではなく、提供する医薬品や医療サービスに応じた患者さんの受療行動や行動心理への深い理解につながっていくのではないでしょうか。


 プロトコルを俯瞰した疾患啓発


——多極重層化するペイシェントジャーニーに対し、今後はますます、患者さんのインサイトを正しく理解し、本質をとらえた疾患啓発が重要になってくるということですね。ありがとうございました。

製薬・ヘルスケア関連企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する「疾患情報発信支援サービス」

ネットの普及によって生活者や患者が受け取る情報はさまざまに増え、その利便性の一方で信頼性のある「適切な情報」にたどり着くのが難しくなっています。

そのような背景からトランスコスモスは、医療用医薬品やOTC医薬品を含む生命関連産業やヘルスケア産業、インシュアランス産業における生活者への疾患・治療情報の発信の支援ができればと思い、日本最大級の医療・ヘルスケアプラットフォームである「Medical Note」を活用した疾患情報発信支援サービスの提供をしています。


「Medical Note」を活用したサービス提供イメージ


本記事に関する不明点や興味・関心などあれば、お気軽にお問い合わせください。

今後もメディカルノート様とともに、製薬企業と生活者・患者のコミュニケーションの円滑化、そしてインサイト把握などを目指し、デジタルソリューションを活用したサービスメニューを拡充していきます。


吉田 由美子
吉田 由美子
トランスコスモスのインターネットプロモーション事業の広報担当として社内外へ情報発信をおこなう。

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