目次

【はじめに】

【テーマ1】
・消費者と企業のコミュニケーションのマルチチャネル化
・テキストコミュニケーションニーズの拡大と、さらなる普及の鍵
・世代別のチャネル選択行動と、次世代サービスの可能性
・世代を超えて多様化していくライフスタイル・価値観

【テーマ2】
・「優良顧客育成地図 2022-2023」から分かるWebやSNSの影響力 
・問題解決のカスタマージャーニーと自己解決の失敗要因 
・顧客の声・現場の声を活用したトータルエクスペリエンスの重要性  

【まとめ】
・デジタルで時間を最小化し、VOC起点で解決率を最大化せよ

消費者と企業のコミュニケーションのマルチチャネル化

まずは例年通り【図1】のコミュニケーションチャネルの利用率推移から見ていきましょう。
この7年間で、どこまでデジタル化が進行したのでしょうか。

 

図1:消費者と企業のコミュニケーションチャネルの利用率推移(調査レポート P8)

 

チャネル利用経験率TOP3は公式サイト(PC・スマホ含む)、店舗、電話となっていることがわかります。
ここで注目すべきは、電話の利用率は7年連続で減少を続け、今年初めて7割を下回っていることです。
また、メッセージアプリ・チャットの利用率は5割以上に増加し、デジタル化が進行しています。
さらには、メタバースなどの最新技術を使った次世代デジタルチャネルも登場し始めています。
ただし、現状は従来チャネルの利用率が依然として高く、デジタルに置き換わるというよりはマルチチャネル化が進んでいるといえます。

公式サイトの利用率は、PCサイトの減少を補う形でスマホサイトがけん引しています。
背景として、外部サイト情報の裏付け、補足、疑問や不明点を解消するために公式サイトのコンテンツを利用するケースが増加しているようです。
公式サイトのカスタマーケアニーズの高まりを受け、今後のサイト制作には今まで以上に見つけやすさや使いやすさが求められるでしょう。

店舗の利用率は、コロナ禍においても減少していません。
これは店舗に来て実際に商品を手に取って見ながら消費体験を楽しんだり、対面で会話しながら接客を受けたりすることを重視する層が多いことを意味しています。
ただし、約半数が来店前にWebを事前確認するなど、店舗とWebを上手く使い分けることは現代の消費者にとって当たり前になっています。
今後、メタバース上の仮想店舗や自動化店舗が普及した時、こうした来店前行動やリアル店舗へのニーズにも変化が表れるかもしれません。

電話の利用率は、前述のとおり減少傾向が続いています。
しかも、【図2】の利用経験率と利用意向率のGAPを見ると、電話は利用経験が68%であるのに対し、利用意向が48%となっており、供給が需要を上回っています。
これは消費者の一部が意に反して、仕方なく電話を利用していることを示唆しています。

 

図2:チャネル別の利用経験率と利用意向率のGAP(調査レポート P11)

 

一方で、電話の利用意向を世代別にみると、全ての世代で約半数が電話利用を望んでいるのも事実です。
自分では解決できない複雑で困難な問題を、企業の担当者と会話しながら解決できる最終手段として重要な拠り所になっています。

だからこそ、本当に困っている消費者のために、企業はコールセンター(コンタクトセンター)が混み合ってつながらないという状況を解消する必要があるのです。
そのため、公式サイト制作においては単にFAQを増やすのではなく、商品情報の拡充やチャットサポートの搭載など、入電量削減につながるような取り組みが重要になります。
コールセンターにおいても、総解決時間やFCR(First Call Resolution:初回解決率)をKPIとして設定し、手間や時間を削減しながら確実に問題を解決するような運営方針を採ると良いでしょう。

テキストコミュニケーションニーズの拡大と、さらなる普及の鍵

【図2】でもうひとつ注目すべきは、メッセージアプリ・チャットなど、スマホを用いたテキストコミュニケーションの利用意向が約8割に達しており、利用経験の約5割を大きく上回っていることです。
しかも、若年層だけでなく定年前の現役世代に至るまで、幅広い世代で7割以上が利用したいと考えていることが今回の調査結果から分かっています。

メッセージアプリ・チャットには、“場所を選ばず、すぐに回答してもらえる” “電話の待ち時間が長い・つながらないときの代替手段になる” “店舗の営業時間が終了しているときの代替手段になる” といった特性があります。
そして、消費者の過半数はこのテキストコミュニケーションが持つ即時対応性の魅力を理解しています。

それにもかかわらず、チャットの普及がいまひとつ伸び悩んでいると感じられるのはなぜでしょう。
実際、過去にチャットボットを導入したが使ってもらえなかったなどの失敗経験を持つ企業担当者も多いのではないでしょうか。
そこで、チャットのどの問題を改善すれば今まで以上に利用したくなるのかを調査したものが 【図3】です。

 

図3:テキストコミュニケーション普及のカギ(調査レポート P13)

 

チャットの普及をさまたげている原因の1つ目は「企業側の環境整備の遅れ」です。
チャットを導入してもWebから誘導するためのUI・導線がわかりにくい、チャットボットから有人チャットや電話への連携ができないといった問題が、消費者がチャットの利用をためらう理由になっています。
過去にチャットを利用したときに使いにくさを感じたり、チャットボットなどに見当違いの案内をされ問題解決できなかった経験のある人は、なるべくチャットの利用を避けようとするでしょう。
これを改善するには、公式サイト上のFAQを見て長時間つまずいている時にチャットへの誘導を表示し、「この問題はチャットですぐに解決できます」という案内を消費者に提示していくなどの取り組みが必要になるのではないでしょうか。

原因の2つ目は「チャットの機能不足」です。
チャットで質問しても、その内容は電話や店舗でしか対応できないと案内されてしまうと、次からはチャットを利用しなくなるでしょう。
電話や店舗で対応できるものについては、チャットでも扱えるようサービス対応範囲を広げるなど、制限を取り払い機能を拡張することが求められます。

もちろん、どうしてもチャットでは対応できず、店舗や郵送での手続きが必要なケースもあるでしょう。
しかし、本来のDXとは、そういった業務をデジタル化することなのです。
チャットを導入しても「店舗にお越しください」「コールセンターに電話をかけ直してください」といった案内に終始し、実質的な業務内容やプロセスを変えずに表面的にチャットを導入して、DXを進めたという体裁だけを装っても、顧客にとってはアナログ企業のままなのです。
無責任なたらい回しは、顧客の離反を招くだけでなく、チャットの問題解決能力に対する消費者の不信感をますます高め、今後のチャットの利用が伸び悩む原因を自ら作り出してしまいます。
たとえば来店予約やコールバック予約の機能搭載など、まだまだ企業側でサポートできることがあるのではないでしょうか。

世代別のチャネル選択行動と、次世代サービスの可能性

【図4】をみると、チャネルの選択行動が世代によって異なることが分かります。

 

図4:世代別のチャネル選択行動とライフスタイル・価値観(調査レポート P30)

 

利用率TOP3のチャネルである公式サイト、店舗、電話について世代差はそれほどありませんが、デジタルチャネルや最新技術については若年層が積極的で、高齢層になるほど抵抗感が増す傾向があります。

たとえば、Web3.0時代の代表的な存在として話題になっているメタバースやNFT、自動化店舗などの次世代サービスについては、全世代での利用意向を見ると現状はそれほど高くありません。
その意味で、実用化は時期尚早と思われます。

ところが、Z世代だけをみると、いずれの次世代サービスも6割前後が利用を求めています。
現状のメタバースはオンラインゲームや店舗・イベントの発展版でしかありませんが、仮想空間が持つインクルージョンなどの特性は、後述するような消費者の多様化に対応できる可能性を秘めています。
そのような観点からも、次世代コミュニケーションを考える上でメタバースなどの動向は引き続き注目していくべきでしょう。

世代を超えて多様化していくライフスタイル・価値観

世代による違いはチャネル選択行動だけでなくライフスタイル・価値観にもみられ、そこにはスマホ・SNS文化の影響が色濃く表れています。

一般的に言われているように、Z世代はデジタル化に積極的で、テレビよりスマホを見る時間が長く、マス広告よりもクチコミを重視します。
また、お気に入りのブランドやタレントなどの、いわゆる「推し」に対しては、自らの消費行動により人気を買い支え、クチコミの拡散に協力することで、企業や社会に影響を及ぼすことができると考えているようです。
さらにZ世代は社会問題に対する意識が高く、LGBTQなどマイノリティに配慮した企業や、SDGsやエコなど社会問題に積極的に取り組む企業を優先的に選ぶ傾向があります。
ただし、他者のルール・モラル違反にも敏感で、許せないという感情を比較的強く持ち、実際に注意・指摘するといった傾向が見られます。
ときにはそれがネット上での炎上や私刑的な行為につながることもあるのかもしれません。

しかし、Z世代と同様の傾向を持つ消費者は他の世代にも少なからず存在しています。
そのため、Z世代という流行り言葉で一括りにして、世代別のコミュニケーションをデザインするといったステレオタイプな考え方は見直す必要があるのかもしれません。
DXを実現するためには、データやAIを活用することで、消費者一人ひとりのライフスタイルやニーズに合わせて訴求内容や誘導するチャネルを切り替えるなど、TPOに応じて1to1でパーソナライズするような方向性を目指すのが良いのではないでしょうか。

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