目次

【はじめに】

【テーマ1】
・消費者と企業のコミュニケーションのマルチチャネル化
・テキストコミュニケーションニーズの拡大と、さらなる普及の鍵
・世代別のチャネル選択行動と、次世代サービスの可能性
・世代を超えて多様化していくライフスタイル・価値観

【テーマ2】
・「優良顧客育成地図 2022-2023」から分かるWebやSNSの影響力
・問題解決のカスタマージャーニーと自己解決の失敗要因
・顧客の声・現場の声を活用したトータルエクスペリエンスの重要性

【まとめ】
・デジタルで時間を最小化し、VOC起点で解決率を最大化せよ

「優良顧客育成地図 2022-2023」から分かるWebやSNSの影響力

コミュ調2021に引き続き、コミュ調2022-2023でも「優良顧客育成地図」を作成しました。
これは消費者が商品購入前に情報収集や比較検討を行い、購入後に発生した問題・疑問を解決し、リピート購入やクチコミを行うようになるまでのプロセスを図解したものです。
 

図5:優良顧客育成地図 2022-2023(調査レポート P19)

 

【図5】を見ると、商品の購入前か購入後かに関わらず、WebやSNSが消費行動に与える影響力が強くなっていることが分かります。
購入前の情報収集段階はECサイトのレビューやキーワード検索の利用率が高く、検討段階や購入段階が進むにつれて、公式サイト(PC・スマホ含む)の利用率が高まっていきます。
購入後の相談段階においては、いわゆる「グッドマンの法則」として知られるように、疑問や不満が発生した際の問題解決のスピードや成否により、リピート率が大きく左右されることがわかります。
このことからも、Webを有効活用し、いかに素早く・確実に消費者に情報を伝え、問題を解決できるかが、顧客満足度や企業収益に大きな影響を与えることが分かります。

また、ここで注目すべきは、顧客体験を通じて消費者が感じた意見や本音を、企業に直接伝えてくれる消費者は46%にすぎず、全体の半数にも満たないという事実です。
その一方で、水面下では多くの消費者が周囲の人々やSNS上にクチコミを拡散し、それが見込み顧客に良くも悪くも大きな影響を与えています。
実際、消費者の約6割は購入・利用時にSNS上での評判を気にしており、約5割はSNS上のつぶやきを積極的に傾聴し、ソーシャルサポートで対応している企業を購入時に優先して選んでいます。
このような調査結果からも、SNSの普及によっていわゆるサイレントマジョリティの影響力が強くなっている現状がうかがえます。

問題解決のカスタマージャーニーと自己解決の失敗要因 

商品の購入前・購入後に関わらず、問題発生から解決に至るまでのカスタマージャーニーは同じです。
基本的には【図6】のようにWeb検索→自己解決→有人対応の流れをたどります。

 

図6:消費者が問題解決に至るまでのカスタマージャーニー(調査レポート P20)

 

消費者の自己解決意欲は概ね高く、まずは公式サイトなどのWebで情報収集し、自己解決できないと不満を募らせながら有人解決に移行します。
自己解決できなかった場合、3人に2人は購入の中止や他社への乗り換えを検討することから、大きな機会損失につながります。
また、有人対応が増えすぎるとコールセンターや店舗に問合せが集中し、顧客対応が遅れ、満足度やリピート率の低下を招きます。

自己解決の失敗要因は、主に “検索しても見つからない” “解決策にたどり着けない/情報が不足している” “内容が分かりにくい”ことに起因しています。
これらの問題を解消し自己解決率を高めることは、顧客ロイヤルティと顧客満足度、両方の改善につながるという意味で極めて重要です。

自己解決率を高めるためには、もちろんFAQなど個別の改善活動が必要です。
しかし、真に顧客体験の価値を高めるためには、デジタル技術を活用しカスタマージャーニー全体での検索性向上や導線整備を進め、より広い視野で全体最適化をはかることが重要です。
たとえば、公式サイト経由の入電率目標を設定し、商品情報やFAQ、チャットの説明内容を平易化するなどの活動が求められます。

とはいえ、あらゆるものをチャットボットなどのデジタル技術で自動化し、機械的に対応すればいいわけではありません。
消費者は、ある時は機械的な素早い対応を求めたり、別の状況では丁寧な有人対応を重視したりと、問合せ目的の性質によってニーズが移り変わるからです。

たとえば「情報収集・手続き」関連の目的は、比較的単純なやり取りで済むことが多く、デジタル技術を使った機械的で素早い対応が求められており、なるべくWeb上での接客や自動化を強化すべきです。
一方で「サポート・変更手続き」関連の目的は複雑な問題になりやすく、より丁寧な対応が求められます。
そのため、自己解決や自動化だけに頼らず、有人チャット等で丁寧に対応してもらえる選択肢を手厚く残しておくほうがよいでしょう。

顧客の声・現場の声を活用したトータルエクスペリエンスの重要性 

近年「トータルエクスペリエンス(TX)」という考え方が海外で注目されているのをご存じでしょうか。
トータルエクスペリエンスとは、

・カスタマーエクスペリエンス(CX)
・エンプロイーエクスペリエンス(EX)
・ユーザーエクスペリエンス(UX)
・マルチエクスペリエンス(MX)

などを統合する概念で、消費者と従業員の体験を活用することで、ビジネスを変革するという考え方です。

 

図7:「顧客の声(VOC)」の重要性(調査レポート P23)

 

【図7】にあるように、消費者の56%が顧客の声(VOC)を傾聴する企業の商品やサービスについて、購入・利用に積極的になると回答しています。また、49%がSNS上のつぶやきに対してソーシャルサポートを行っている企業の商品やサービスの購入・利用に積極的になると回答しています。
つまり、直接的か間接的かは関係なく、企業に寄せられたVOCをしっかり活用することで消費者の購入優先度を高め、企業の評価やイメージ向上につながることが分かります。

このことから学ぶべきは、デジタル化によりコールセンターの入電量を減らすことができるからといって、安易に消費者との対話の時間を削減しすぎてはいけないということです。
むしろ、デジタル化で生み出したゆとりを活用して、消費者との貴重な直接対話を通じて、その要望や本音を聞き出すための時間に充てるのが、コールセンターの本来あるべき姿ではないでしょうか。

さらに、顧客の声だけでなく、企業で働く従業員から寄せられる現場の声についても、同様の調査結果が得られています。
現場で働く従業員の声は、消費者とは一見無関係に見えても、企業がそれを改善に活用できているかどうかを消費者は注目しているのです。
VOCを起点に改善活動へ取り組む企業は多いですが、それに比べると現場の声は注目されにくい存在です。
しかし、現場の声は従業員を介在して寄せられる顧客の声の一種であり、より多くのニーズや示唆を含む貴重な情報だと考えられます。
このことからも、トータルエクスペリエンスという考え方の重要性がうかがえるでしょう。

まとめ:デジタルで時間を最小化し、VOC起点で解決率を最大化せよ

今回の調査結果をまとめたものが【図8】です。

 

図8:シームレス・コミュニケーションとVOC活用による、CXの全体最適化(調査レポート P34)

 

企業は消費者がなるべく自己解決できるように公式サイトの検索性を高めて使いやすくし、TPOに応じてチャットや電話の有人対応に誘導する必要があります。
それにより、消費者が最小限の手間や時間で確実に問題を解決できるよう、運用体制や業務プロセスを整備しなければなりません。
その際、単に新たなチャネルを追加し、コンテンツ拡充や業務効率化を行うだけでは不十分です。
デジタル技術を駆使してシームレスなコミュニケーションを実現し、問題解決プロセス全体の最適化を行い、CV率や解決率を高めるだけでなく、消費者が問題解決に要する総合時間を短縮するという発想で取り組むことが求められます。
そして、このようにCXを全体最適化する取り組みこそが、結果的に顧客満足度や企業収益を向上させます。

また、企業に直接本音を伝えてくれる消費者は半数以下にもかかわらず、消費者の約半数はVOCを傾聴し、改善に役立てている企業の商品やサービスを優先的に購入・利用します。
VOCの内容が感謝の言葉であれクレームであれ、直接的な顧客の声であれ間接的な現場の声であれ、企業はそれを絶好の改善機会と捉えるべきであり、VOCを起点にした問題解決までの時間短縮、解決率の向上に取り組む必要があります。
そのためには、散在する様々なVOCを傾聴し、改善活動に活用できる運用体制と、それを支えるデータ環境や技術基盤などのCXプラットフォームを構築することが求められるでしょう。

 

 結 論

消費者と企業のコミュニケーションにおけるDXが目指すべき姿とは、

シームレスなコミュニケーションで、問題解決の時間を「最小化」し、
VOCを起点とした改善活動で、問題解決の成功率を「最大化」すること。

そのためにデジタル技術を活用することが、CXの改善や企業収益の向上につながるのです。

 

本稿でご紹介したもの以外にも、多くの有益な調査結果を得ています。
こちらから調査レポートをダウンロードし、解説記事と合わせてご確認ください。

以上の調査結果が、消費者と企業のコミュニケーションにおけるデジタル化やCX戦略の今後の方向性を、皆さまとともに考えるきっかけとなれば幸いです。

 

 編集後記

 

 

コミュ調の徹底解説、最後までお読みいただきありがとうございます。

 

今回の調査テーマのひとつであった、メタバースを中心としたWeb3.0系の技術。
実は「消費者は割と冷めた目で見ており、利用意向も全体的に低いのでは?」と考えていました。
ですが、Z世代などの若年層を中心に、利用に前向きな方が思いのほかいることがわかりました。
これらの技術が、将来の消費者コミュニケーションにどのような影響を与えるのか、楽しみですね。

 

業界で初めて、消費者コミュニケーションのデジタル化に焦点を当て、調査をしてきたコミュ調。
メタバースやZ世代の動向は、引き続き注視していきたいと思います。
今後もご期待ください!

 

編者:小林 聖和

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