■はじめに
2016年より始まった「消費者と企業のコミュニケーション実態調査」も9年目を迎え、毎年多くのお客様企業よりご好評をいただき「コミュ調」の愛称で親しまれています。
今回のコミュ調2024-2025でも、約4,000人のインターネットモニターにアンケート調査を実施しています。
■消費者と企業のコミュニケーション実態調査 実施概要
●調査企画:トランスコスモス株式会社
●調査目的:消費者と企業のコミュニケーションの実態把握
●調査時期:2024年7月31日~8月5日
●調査方法:インターネットモニター調査
●ダウンロードペーパー:https://www.trans-plus.jp/data/2024cx
9年目となるコミュ調2024-2025では、2つのテーマを掲げました。
本稿においては、「テーマ1:コミュニケーションチャネル最新利用実態」を中心に解説します。
コミュニケーションのデジタル化の最新状況を経年比較設問として調査するとともに、昨年度はまだ草創期だった生成AIについても、既に市場への導入が進みつつあるので、消費者の利用状況や意識の変化を調査しました。
記事内のグラフやイラストのより詳しい解説は、今年度の調査レポートに掲載されています。
またもう一つのテーマである「CX指標の測定と重点改善項目」についても、詳しい考察がされています。
下記のQRコード、もしくはこちらから是非ダウンロードを行ってください。
顧客接点(チャネル)別の利用経験率をみると、電話、公式サイト(PC・スマホ)、店舗のチャネル利用経験率は依然として高い水準になっています。
その一方で、チャット*¹やAI自動音声応答などが拡大傾向にあり、チャネルの多様化が進んでいます。しかも、音声・文章・動画などの複数の形式・手段が混在するマルチモーダル化が進んでいます。【図1】
*¹チャットボット(無人)または有人チャットの双方を含むハイブリッドチャット
図1:消費者と企業のコミュニケーションチャネルの利用経験率
過去の利用経験だけでなく、今後も使いたいと思っているかという利用意向も調査しています。
【図2】にある利用経験率と利用意向率のギャップを見ると、電話やEメールの利用意向は、利用経験を大きく下回っています。これは、消費者が意に反して仕方なく電話やEメールを利用していることを示唆しています。
図2:チャネル別の利用経験率と利用意向率のGAP
対して、チャットの利用意向率(55%)は利用経験率(28%)を大きく上回っています。
チャットについては、利用したい消費者に対して、企業の実装が追い付いていない現状が見て取れます。
ちなみに、公式スマホサイトの利用意向率を世代別にみると、若年層(65%)や中間層(65%)だけでなく、壮年層(45%)でも半数近くが利用したいと回答しています。
以上の調査結果から、企業はスマホを前提としたチャットサポートの拡充、すなわちテキストコミュニケーションの環境整備が求められていることがわかります。
一方、チャットサポートの普及には様々な課題があります。
代表的な課題として【図3】にあるような、チャットボットの文章や表現がわかりにくい(36%)、チャットボットの回答精度の悪さ(28%)、チャットに至るまでの導線の分かりにくさ(17%)、電話と比べた時のサポート対象範囲の狭さ(7%)などが挙げられます。
しかし、そうした課題を解決すること以上に、消費者の65%が、有人連携によるハイブリッドサポートを望んでいます。
図3:チャットサポートの普及に向けた課題とハイブリッドサポートのニーズ
要するに、消費者が最終的に求めているのは「問題解決」であるということです。チャットボットの回答精度や対応範囲を改善することも必要です。しかし、さらに重要なのはチャットボットで解決できない場合に有人チャット対応に引き継ぐ「ハイブリッドサポート」体制をつくり、問題解決まで確実に導くことなのです。
近年話題の生成AIを活用することにより、音声やテキストなどマルチモーダルでの対応や、あいまいな指示への受け答えが可能になり、より便利な方法で必要な情報を得ることができるようになる可能性があります。
生成AIとは、言葉(文章や音声)でAIに指示すると、あたかも教育を受けた人間のように、文章や画像をつくることができるAIのことです。生成AIを活用し企業とのコミュニケーションを支援するサービスは、事前の情報収集、購入手続き、購入後のサポートなど、様々な場面での導入が始まっています。
生成AIの普及速度はすさまじいものがあります。今回の調査でも、生成AIの本格的な登場から数年で、すでに消費者の6割が生成AIを利用したコミュニケーション支援サービスの利用を経験しています。【図4】
しかし同時に、利用した消費者の約半数は不満を抱えており、まだまだ改善の余地があるという現状もうかがえます。
図4:生成AIを活用したコミュニケーション支援サービスの利用実態
生成AIには「ハルシネーション」という、一見もっともらしいが事実とは異なる「嘘」や、文脈と無関係な内容を回答する場合があります。
そうした実状に対して、今回の調査では「誤回答や誤対応などによる損害は自己責任でもいいので、AI自動応答を利用したいか?」という問いを投げかけました。すると、消費者の利用意向は53%と、高い水準を示しました。つまり、リスクを考慮しても半数はAI自動応答を利用したいと考えているのです。
その一方で、【図5】にあるように50%の消費者が「AIの回答に疑問や誤りが生じた時のために、有人窓口を設置してほしい」と回答しています。チャット同様、生成AIを活用した自動応答と有人対応を組み合わせたハイブリッドサポートで、確実に問題解決まで導いてほしいというのが消費者の本音であり、企業がとるべき現実的なアプローチといえるでしょう。
図5:生成AIを活用したサービス(AI自動応答)利用意向
ここからは、これまで論じてきたような各チャネルを個別に考察する「点」の視点に加え、カスタマージャーニーに沿ったチャネル間遷移の視点に基づいて、消費者行動を「線」で見てみます。
購入前後のカスタマージャーニーを示した【図6】の「優良顧客育成地図」を見ると、情報収集や問題解決の手段としてデジタルチャネルの存在感が増しています。中でも、Webによる検索、公式サイト、SNS上のクチコミの影響力が高くなっている現状がうかがえます。
図6:優良顧客育成地図2024
もうひとつ「優良顧客育成地図」から読み取るべき注目点があります。それはいわゆる「サイレントマジョリティ」を含む顧客の声の重要度がますます高まっているということです。
顧客の声(VOC)を企業に直接届けてくれる人の割合は3割程度です。そうしたVOCに含まれる既存顧客のニーズをしっかりとくみ取り、改善活動に生かしていくことは顧客ロイヤルティ向上の観点からも重要です。実際、「VOCを活用している企業を優先的に選ぶ」と回答している消費者は83%に上ります。
しかし、問題はサイレントマジョリティである残りの声なき消費者です。そのうち46%は、直接ではなく間接的に声を発しているため、実態は「サイレント」ではありません。
彼らはSNSや周囲の知人に評判・クチコミを拡散し、水面下で見込み客に大きな影響を与えます。SNS上のクチコミによって新規の見込み客の実に42%が購入時のブランド選択で影響を受けるのです。
したがって、企業に直接届くVOCに耳を傾けるだけでなく、SNS上の評判・クチコミをソーシャルリスニングし、改善活動にフィードバックしていく必要があります。
ここで企業に届くVOCを内容別に見ると、ネガティブやポジティブな声を伝える人以上に、ニュートラルな声(疑問・感想・要望など)を伝える人が多くなっています。【図7】
図7:企業に伝える顧客の声の分類
これは、極端にネガティブまたはポジティブな目立った声に反応するだけでは不十分だということを意味します。むしろ、何気なく発せられた声に含まれる課題やニーズをくみ取り、それらを商品や宣伝、カスタマーサポートの改善活動にフィードバックすることが求められているのです。
続いて、消費者が購入前に情報を収集したり、疑問や不満が発生して問題解決を図ったりする場合のプロセスを見てみましょう。
消費者は基本的に【図8】のように「Webでの事前検索⇒公式サイトでの自己解決⇒有人連携での確実な解決」のプロセスを辿ることがわかります。消費者の98%がまずはWebを検索し、83%が主に公式サイトを活用して自己解決を試みます。そして、自己解決できない場合92%が不満を募らせながら有人解決に移行します。
図8:消費者の問題解決プロセス
これは、店舗やコールセンターなどの有人窓口における顧客対応の満足度や解決率を高めるだけでは不十分で、公式サイト等で検索性能やコンテンツの拡充を進め、自己解決率を向上していくような取り組みが必要だということを意味しています。
情報収集時の検索手段の内訳をみると、キーワード検索が約9割と最大になっています。また昨今では動画検索などに加え、AI検索の利用も増加しており、検索手段の多様化が進んでいます。【図9】
図9:問題解決時の検索手段とよく使う公式サイトのコンテンツ
検索手段が多様化する一方、自己解決の要衝となるのは前述の通り公式サイトです。
公式サイトでの自己解決によく利用されているのはFAQですが、商品情報などFAQ以外のコンテンツも約7割の人に利用されていることから、FAQを拡充するだけでは不十分であることがわかります。
加えて、【図10】にある通り、自己解決の成否は既存顧客のロイヤルティにも大きな影響を与えます。
図10:自己解決の成否による継続意向の変化と、カスタマーサポートが見込み客に与える影響
自己解決に成功した場合9割近くが継続意向を示しますが、自己解決に失敗し有人対応へ移行するにつれ低下し、最終的に問題解決に失敗すると3割未満にまで悪化します。
この調査結果からも、カスタマーサポートにおける自己解決の重要性が理解できるでしょう。
さらに、カスタマーサポートの品質や評判は、既存顧客だけでなく新規顧客のブランド選択にも影響します。
ここでカスタマーサポートとは、購入後のトラブルに対する問合せや修理、フォローアップといったアフターサポートだけでなく、購入前の商品・手続き情報の発信や相談、見積り・手続きなどの相談・支援といったプリセールスサポートも含まれます。
【図10】からもわかるように、見込み客の81%はプリセールスサポートの品質で、84%はアフターサポートの評判で、より良い企業を優先して選ぶのです。
結 論 |
コミュニケーションチャネルの多様化が進む中、電話・公式サイト・店舗などの従来チャネルだけでなく、チャットサポートを中心としたテキストコミュニケーションが拡大しています。
また、生成AIを活用したコミュニケーション支援サービスも、課題や不満はまだまだ多いものの、急速に導入が進んでいます。
以上のような「コミュニケーションチャネル最新利用実態」を踏まえて、企業は最新の技術動向や顧客ニーズに対応していかねばなりません。
そこで、コミュ調2024-2025から導き出された「次世代コミュニケーションの目指すべき姿」に対する結論は、以下となります。
① デジタル活用による自己解決促進とハイブリッドサポートの強化が求められる
② VOCを活用した改善活動が、既存顧客をつなぎとめ、新規顧客を呼び込むことにつながる
③ 購入前後のコミュニケーション体験を細分化した評価項目体系による現状把握が重要
①について、企業との一連のコミュニケーション体験において消費者が企業に求めているのは、デジタル活用による自己解決の促進と、消費者を最終的な問題解決に導くための有人連携の強化だといえます。
具体的には、SEO対策や導線整備で公式サイトへの誘導力を高め、公式サイトでの自己解決率を高めるために商品情報や特設ページ等、FAQ以外のコンテンツも強化する必要があります。あわせて、チャットボットや生成AIを活用したデジタルコミュニケーションへの対応が求められます。
一方で、自己解決できない場合に備え、時間や手間をかけずに有人対応に連携できるハイブリッドサポート体制を構築することも重要です。チャットやAIを活用しコスト削減をすることだけが目的化すると、消費者の問題解決を最優先とする視点がしばしば欠けてしまうので、注意すべきです。
②について、企業に直接届けられる問合せや苦情・クレームなどの目立った顧客の声(VOC)だけでなく、SNS上の評判・クチコミや、疑問・感想・要望などの何気ないVOCに耳を傾け、商品や広告、カスタマーサポートの改善活動に活用する必要があります。
公式サイトの商品情報やFAQに掲載されているわかりにくい表現やサイト構造を見直したり、チャットボットや生成AIの学習用データを活用して回答精度を上げるなどの取り組みが求められます。
そのような改善活動を通じて、プリセールスサポートの品質やアフターサポートの評判を高めることが、既存顧客のロイヤルティ向上と新規顧客のブランド選択に大きな影響を与えるのです。
では、実際にどのように消費者のニーズや課題を捉えて、具体的にどんなポイントを強化・改善していけばよいのでしょうか。
消費者視点で自社のコミュニケーションプロセスの改善点を特定するためには、まずは現状把握が必要です。そのためのヒントになるのが③です。
この内容については、コミュ調2024-2025の調査レポートにおいて詳しい考察がされています。コミュニケーション体験を評価するための指標の選び方や、購入前後のコミュニケーション体験を細分化した評価項目体系を紹介していますので、調査結果と解説記事を併せてご確認ください。
調査レポートはこちらからダウンロードできます。
なお、本稿でご紹介したもの以外にも、多くの有益な調査結果を掲載しています。
以上の調査結果が、消費者と企業のコミュニケーションにおけるデジタル化やCX戦略の今後の方向性を、皆さまとともに考えるきっかけとなれば幸いです。
【過去のレポートはこちら】
【編集後記】
コミュ調の徹底解説、最後までお読みいただきありがとうございます。
「消費者と企業のコミュニケーション」と聞いて、皆様はどのようなことを思い浮かべますか?
スマホを買う前にキャリアの公式サイトを見てプランを比較する。エアコンの調子が悪くてメーカーに修理を依頼するなども、実は皆様の周りで頻繁に取られている「企業とのコミュニケーション体験」のひとつなのです。
このコミュニケーション体験を改善する評価項目の設計には、多様な消費者コミュニケーションをある程度網羅的に項目に落とし込んで設定する必要があり、今回の調査を考える中で最も難儀した部分でした。
最初は数百個ほどの項目が挙がったものの、プロジェクトメンバーで何度も議論を重ね、共通項をグルーピングし、そのトライアンドエラーを繰り返すことで、最終的になんとか約80項目まで絞り込むことができました。こちらの詳細もぜひ調査レポートをご覧ください。
今後もコミュニケーションの最新トレンドに着目しつつ、皆様の役に立つデータを提供していきます。
是非ご期待ください!
編者:小林 聖和
© Copyright 2023 transcosmos inc.