自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)~2025年までにおきること~
デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉は意外と古く、2004年にスウェーデンの教授が提唱した「ITが人々の生活をより良い方向に変化させる」という概念だ。日本では2018年、総務省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を発行し、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と位置づけている。(参考:経済産業省「「DX 推進指標」とそのガイダンス」)
2020年は新型コロナウイルスの蔓延によりDXが大きく推進した1年だった。「テレワーク(在宅勤務化)」や学生たちの「オンライン授業」、政府主導で進める「脱はんこ」政策もDXのひとつだ。いずれもインターネットの進化(速度・価格・VPN)、情報端末のコモディティ化(PC/タブレット/スマートフォン)、そしてクラウドサービスの普及(CRM仮想デスクトップ・オンライン会議など)といった「インフラ」「ハード」「ソフト」の3点が実用化されたことがDX推進に大きく寄与している。
オフィスや学校だけでなく、小売業はECへの移行が進み、飲食店はUber Eatsや出前館のようなデリバリーサービスが浸透、様々な産業でDXが進む中、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(2020年12月25日閣議決定)において、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示された。
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総額4600億円-自治体DXの中身とは?
「最も身近なデジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく」ことが、自治体DXの理念だ。
総務省は2021年1月から2026年3月までの5年間で自治体DX推進のため6つの重点施策と2つの取り組むべき事項を打ち出した。
① 自治体の情報システムの標準化・共通化
② マイナンバーカードの普及促進
③ 自治体の行政手続のオンライン化
④ 自治体のAI・RPAの利用推進
⑤ テレワークの推進
⑥ セキュリティ対策の徹底
自治体DXと併せてとりくむべき事項
① 地域社会のデジタル化
② デジタルデバイド対策
重点取組事項
自治体DXの取組みとあわせて取り組むべき事項
自治体DX推進計画概要より作成
※予算に関わるものは当該予算の成立が前提
自治体の情報システムの標準化・共通化(①)を軸として、 自治体の行政手続のオンライン化(③)に必要なマイナンバーカードの普及(②)、セキュリティ対策(⑥)、自治体業務内部の効率化(④・⑤)を推進していく。いずれも平行して市民・地域社会のデジタル化が重要だ。
共通的な基盤・機能を提供する(「(仮称)Gov-Cloud」)とは?
自治体の情報システムは、これまで各団体が独自に発展させてきた結果、システムの発注・維持管理や制度改正による改修対応など個別に対応せざるを得ず、自治体の負担が大きくなっている。
国・地方を通じたデジタル化を進める点でも、各自治体のシステム機能が標準化され、共同で利用する方が自治体の職員の運用工数軽減という点からも効果が見込まれる。これを実現するのが国の情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供するクラウドサービスの利用環境(「(仮称)Gov-Cloud」)だ。
出典:内閣官房IT総合戦略室 地方自治体業務プロセス・情報システム標準化の取組について
これにより、業務改革(BPR)、業務・データの標準化等を前提に「(仮称)Gov-Cloud」を活用して各システムを構築することで迅速なシステム構築・柔軟な拡張・最新のセキュリティ対策・コストの大幅低減などを実現できる。
自治体の主要な17業務を処理する基幹系システムの標準仕様を作成。「(仮称)Gov-Cloud」の活用に向けた検討を踏まえ、各事業者が標準仕様に準拠して開発したシステムを自治体が利用することを目指す。
1.住民基本台帳
2.選挙人名簿管理
3.固定資産税
4.個人住民税
5.法人住民税
6.軽自動車税
7.国民健康保険
8.国民年金
9.障害者福祉
10.後期高齢者医療
11.介護保険
12.児童手当
13.生活保護
14.健康管理
15.就学
16.児童扶養手当
17.子ども・子育て支援
マイナポータルの活用が拡大へ。その対象業務とは?
自治体の行政手続のオンライン化では、利便性向上に寄与する31手続き(子育て関係15、介護関係11、被災者支援関係1、自動車保有関係4)をマイナポータル利用へ移行する。
処理件数が多く住民等の利便性の向上や業務の効率化効果が高いと考えられる手続きをデジタル化による利便性の向上を、2022 年度(令和4年度)末を目指して、原則、全地方公共団体で、特に国民の利便性向上に資する手続について、マイナポータルからマイナンバーカードを用いてオンライン手続を可能にする。
このため、マイナポータルの UI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)の改善に加え、全地方公共団体においてマイナンバーカードを用いて子育て・介護等のオンライン手続が可能となるよう、地方公共団体のシステム改修等の支援を行う。
自治体の行政手続のオンライン化のスケジュール
年間2000億・地域デジタル社会推進費(仮称)による地域社会のデジタル化
インターネットの高速化(光ファイバーの全国的な展開や5Gサービスの開始など)により、 地域社会のデジタル化を推進するため、「地域デジタル社会推進 費(仮称)」として、2021年度(令和3年度)及び2022年度(令和4年度)各年度2,000億円程度(うち道府県分800億円程度、市町村分1,200億円程度)を予算計上する見込みだ。
具体的には、高齢者向けのデジタル活用支援や地域におけるデジタル活用における地域振興、デジタル人材の育成などに活用される。
・デジタル社会の恩恵を高齢者など 多くの住民が実感できるためのデジタル活用支援
・デジタル技術を活用した観光振興や働く場の創出など魅力ある地域づくりの推進
・地域におけるデジタル人材の育成・確保
・デジタル技術を活用した安心・安全の確保
・条件不利地域等におけるデジタル技術 を活用したサービスの高度化
・中小企業のデジタルトランスフォーメーション支援
出典:自治体DX推進計画概要
自治体DX。まずは自治体サイトのUI/UXの見直しを
地域社会のデジタル化はコロナ禍におけるニューノーマル時代において、接触機会を減らす施策として重要だ。今後2年間でマイナポータルの活用促進など国を挙げて大きく加速していく。
一方で自治体が取り組む必要があるのが住民への情報の入り口でもある「自治体サイト」の整備だ。
様々な業務がオンライン申請が可能になり、自治体サイトの情報を充実させても、サイトの利便性が悪く、電話での問い合わせや窓口に来訪されては本末転倒だ。
住民の問い合わせ導線を整理し、自治体サイトのUI/UXの満足度を高め、中高齢者向けのデジタル化対策、スマートフォン世代への自己解決を推進するFAQの充実や情報配信、LINEやチャットなど新たな窓口チャネルの設置など、住民とのデジタル接点の強化が必要だ。