【ネット広告業界ふり返り】ニューノーマルでどうなった?!消費トレンドと広告業界の動向|2020年度版
今年2月に電通から発表された「2020年 日本の広告費」によると、日本の総広告費は6兆1,594億円(前年比88.8%)と東日本大震災の2011年以来、 9年ぶりとなるマイナス成長でした。
2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大によって外出・移動の自粛がかかった事から、オリンピックなど各種イベントや広告販促キャンペーンは延期・中止となり、観光業や飲食業を中心に日本経済は大きな打撃を受ける事となりました。
一方、デリバリーやネット通販、リモートワークを始めとした「巣ごもり消費」、そして人や企業を応援する「応援消費」といった、オンラインを軸とした新しい消費トレンドによって、市場が拡大するケースも見られました。【参考】
激動の一年となった2020年、マーケティング・広告トレンドはどのような変遷をたどり、この先どのように変わっていくのでしょうか?見通しが不透明な昨今だからこそ、今後のヒントを探るべく2020年の消費トレンドに沿ってニュースを振り返っていきましょう!
目次[非表示]
【1】アフターコロナの消費スタイルと、関連するメディア動向
①GAFA
世界最大級の証券取引所であるニューヨーク証券取引所が扱う「米国株 時価総額ランキング」によると、2021年5月28日現在、ベスト10位以内には「GAFA」がすべてランクインしています。
直近の特徴としては、自動車業界からEV(電気自動車)を筆頭に急伸長中の「テスラ」と、自動車やIT機器などに不可欠な電子部品を生産する半導体業界から「台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング」といった企業が新たにランクインしています。
その背景には、コロナ禍を経て、各国政府はEV購入者に補助金を出すなど経済回復の刺激策を施行しEVブームが起きた事や、DX化が急速に進んだ事から半導体の特需が発生した事が考えられます。コロナ禍の波に乗った最先端、かつ巨大化が見込まれる市場が新たに評価される傾向にあるようです。
▲米国株 時価総額ランキング (2021年5月28日現在)
ランキング上位をIT関連株が席巻する状況ではなくなったものの、GAFAは去年コロナ禍で促進されたDX需要により「クラウド」サービスが牽引する形で売上は好調に推移したようです。
なお、コロナ禍以前、Google・Facebookの売上を牽引していた「広告」については機能拡充を通じて堅調に売上を伸ばしました。去年4月、GoogleはGoogle検索における「ショッピング」タブの商品掲載を無料で行える機能を、そして今年2月にYouTube の「ショッパブル広告」を相次いでリリース。EC・ソーシャルコマース(後述) に関連する広告サービスの拡充を行いました。
ECに連なるサービス拡充の動きは2019年頃から盛況でしたが、コロナ禍に伴う外出制限から生じた巣ごもり消費・応援消費によるEC需要増に応える形でサービス展開が加速したと見られます。
2021/2/5
米5大IT、最高益更新 10~12月、売上高も
2020/4/27
【ニュース】Google検索のショッピングタブに無料で商品掲載が可能に
2021/2/1
YouTube 、新たに「ショッパブル広告」を導入へ:動画サイトの競争が激化
②巣ごもり消費
「巣ごもり消費」とは、外出自粛にともない自宅にいながらのショッピングや、ネットを活用したエンターテインメントを楽しむことを指します。中でも余暇時間を充実させるためのオンライン上のコンテンツ(動画・ゲームなど)や、自宅で快適に過ごすための商品(家電・家庭商品など)や在宅勤務に関連する商品の消費が拡大しました。【参考】
このパートでは巣ごもり消費によって大きな動きが見られたメディアのニュースを振り返ります。
動画
Mediabrandsのメディア接触に関する調査によると、コロナ禍によって”自由時間が増えた”と感じる人が使う自由時間で最も多かったのは「テレビ視聴」、次いで「動画配信サービス視聴」「読書」でした。
コロナ禍におけるメディア接触はテレビが好調な一方、「日本の広告費」の「テレビメディア広告費」は前年比88.7%と減少傾向で、新型コロナ拡大に伴う広告費削減などの影響が大きかったようです。
しかし「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」の「テレビメディアデジタル」は、地上波テレビ放送由来の高いコンテンツ力を持つ「TVer(ティーバー)」がユーザー数を大きく伸ばし、前年比112.3%と高い伸長率を見せました。なお、TVer広告については昨年12月に運用型広告をリリースするなど柔軟な広告プロダクト展開が進んでいます。
2021年もデジタル動画界隈の勢いが衰える事は考えにくく、TVerやコネクテッドテレビ等の普及によって、人々が視聴する動画コンテンツに地上波とデジタルとの垣根がなくなっていくと思われます。これからは「テレビ」と掛け合わせた時に生まれる相乗効果を考えたマーケティング設計を構築していく必要がありそうです。
2021/1/22
巣ごもりの三が日、テレビ視聴は過去10年間で最高…ビデオリサーチ調査
2021/1/27
コロナ禍により増えた自由時間の使い方、「テレビ視聴」と「動画視聴」が拮抗
2020/12/22
2020年の動画広告市場は2,954億円、昨年比114%の見通し 販促用の広告需要が増加【CA調査】
2020/12/10
【TVer】広告プロダクトを刷新し、新たにTVer広告の提供を開始〜高精度なターゲティングがコネクテッドTVでも提供可能に〜
2021/1/22
運用型テレビCM市場、2025年には920億円規模に拡大すると予測【テレシー調査】
音声
今年1月、シリコンバレー発の音声SNS「Clubhouse」が大きく話題になり、音声メディアはネクストトレンドの筆頭として注目を集めています。今年2月に発表されたトレンダーズの調査によると、約3人に1人は日常的に何かしらの音声メディアを利用しており、利用者が多い順に「radiko」「Spotify」「ポッドキャスト (AppleまたはGoogle)」となりました。
「日本の広告費」によると、ラジオデジタルは「radiko」の聴取率が伸びたことでラジオデジタルの運用型広告への注目が集まり、それに伴う出稿増により11億円 (前年比110.0%)と、好調に推移しました。
今年2月にSpotifyが音声広告プラットフォーム「Spotify Audience Network」を提供開始するなど、音声メディア市場は今後も活性化が見込めそうです。
2021/2/26
Spotify、音声広告プラットフォーム「Spotify Audience Network」を提供開始
2021/2/10
約3人に1人が「音声メディアを日常的に利用」、今後使ってみたいメディアに「Clubhouse」「SPOON」【トレンダーズ調査】
2021/2/26
Clubhouseの認知率は4割程度/「人との交流」を目的に利用【ネオマーケティング調査】
書籍
全国出版協会・出版科学研究所によると2020年、国内コミック市場(電子・紙の合算)は前年比23%増の6126億円を突破し、過去最大の市場規模を記録したそうです。同調査では特筆すべき点として、劇場版が日本の歴代興行収入1位を更新した『鬼滅の刃』 (集英社)の社会現象ともいえるヒットがもたらした影響に言及しました。
「日本の広告費」でも雑誌デジタルは446億円 (前年比110.1%)で、特に電子雑誌はコミック誌を中心に大幅な伸長を見せたとあります。
自宅等での余暇の過ごし方として、書籍関連メディアが受け入れられている点については今後も注目です。
2021/3/3
2020年コミック市場は過去最大の6126億円 『鬼滅の刃』と巣ごもり需要が要因
③応援消費
「応援消費」とは、人や企業、地域などを応援する目的の消費を指し、ふるさと納税やクラウドファンディング、アイドルへの消費などもそこに含まれます。応援消費が増える背景の一つには、倫理的で正しいと思えるものにお金を使う「エシカル消費」への関心の高まりも考えられます。
このパートでは応援消費によって大きな動きが見られたメディアのニュースを振り返ります。
ソーシャルコマース
「ソーシャルコマース」とは、ソーシャルメディア(SNS)とECを掛け合わせて商品の販売促進を行う販売チャネルの一種です。2020年はソーシャルコマース化に向けたサービス・機能拡充がプラットフォーム・インフルエンサー事業の双方で加速しました。
プラットフォームの動きとしては、今年2月にYouTubeが「ショッパブル広告」を導入したり【参考】、同2月にTikTokがShopifyと提携開始しShopifyの管理画面からTikTokへの広告出稿を可能としました。
インフルエンサー事業側は、去年12月にUUUMがインフルエンサーコマース事業を開始し、D2Cブランドのライブコマース・ブランドプロデュース・SNS発信など多角的なソリューションを開発したり、今年3月には楽天がInstagram上のインフルエンサーを起用できるツールを提供開始するなどの動きがありました。
TikTokを提供するBytedanceは6月、クリエイターを紹介するサイト「TikTok Creators Showcase」を公開するなど、ビジネス向けに積極的なクリエイター情報を展開。SNSが販売チャネルとして成熟するに伴い、競合優位性を確保するためインフルエンサー(クリエイター)などSNSコミュニケーションのプロを本格的に活用すべきフェーズに突入してきたと考えられます。
2021/2/26
TikTokがShopifyと日本で提携、TikTokへの広告出稿が可能に
2020/12/9
UUUMが新インフルエンサーコマース事業を始動 国内外246のブランド・ディベロッパーと協業
2021/3/17
楽天、楽天市場の出店店舗向けに「Instagram上のインフルエンサーを起用できる」ツールを販売開始
2020/6/26
TikTokで活躍する多様なクリエイターを紹介するウェブサイト「TikTok Creators Showcase」を公開
TikTok、Twitter
Apptopiaの調査によると、昨年TikTokは「世界で最もダウンロードされたアプリ」に輝き、DL数は8億5000万件に上りました。【参考】
日本でも、瑛人の『香水』・YOASOBIの『夜に駆ける』・優里の『ドライフラワー』などを始め、TikTokをきっかけにブームが生まれるユースカルチャーの最先端プラットフォームへと進化しています。
なお、2020年にヒットした音楽作品の指針として、Spotifyが提供する「Viral 50チャート」がテレビ番組などで注目されました。このチャートは、Spotify, TikTok, YouTubeなど各種プラットフォーム上でのストリーミング再生やリスナーのシェア数を分析してランク付けしたもので、もはや音楽ダウンロード回数では昨今の音楽シーンを測りきれない状況を象徴しているようです。
さて、こうしたクリエイターとファンの関係を盛り上げる・応援消費を促進するような動きとして、2月にはTwitterが課金機能にあたる「スーパーフォロー」機能を、3月にはTikTokがフィフティング(投げ銭)機能を相次いで拡充しました。投げ銭をはじめとした応援消費による新しいムーブメントが今後どのように発展していくのか注目です。
2020/12/18
「きゅんです」「ぴえんヶ丘どすこい之助」が2020年を制した理由。意外に知らない「TikTok発」の爆発力
2021/3/3
TikTok、ギフティング(投げ銭)機能を3月1日から提供開始
2021/2/26
Twitterが課金機能「スーパーフォロー」発表 2021年に実装、収益化に新展開
【2】市場の健全化
Cookie規制
昨今、個人情報保護の観点から3rd Party Cookie規制が強化・本格化しています。この規制強化によって、特定のユーザーと類似するユーザーの追跡を行ういわゆる「ターゲティング広告」の精度が大きく落ちると予想されています。
2020年度にあった規制強化の動きとして、Googleは去年4月、2022年までに3rd Party Cookieの利用を禁止すると発表し、今年3月には3rd Party Cookieに限らず全ての広告において個人を追跡する技術を使用しないことを発表。Appleは去年9月にiOS14でのIDFA制限を2021年に実施するとしました。
続いて代替技術に関する動きですが、Googleは今年1月、個々のユーザーを追跡せずに広告主とパブリッシャーに成果を提供する事を可能とするAPI「FLoC」を発表し、3月にテスト開始しました。Facebookは「コンバージョンAPI」機能を提供開始、Twitterはキャンペーン設定の簡易化により代替技術の浸透を進めています。
このように代替技術の補完が進む一方、「FLoC」は独禁法違反であるとして調査開始されるなど先行きが不透明な状況ではあります。しかしながら3rd Party Cookie規制が強化されていく事は確かなので、代替技術、あるいはユーザー追跡に頼らないマーケティング施策に向けて動いていく必要がありそうです。
2020/9/4
Apple、iOS14でのIDFA制限を2021年に延期
2021/3/5
Google、全ての広告において個人を追跡する技術を使用しないことを発表 〜クッキー以外の手段も停止〜
2021/3/4
Google、サードパーティーCookie完全廃止に向けてFLoCのテスト開始
ネット広告市場の健全化に向けた動き
去年より続いていたネット広告の健全化に向け、政府・広告関連団体・メディアの三者三様の動きがありました。
去年6月、日本政府はブラックボックス化していたネット広告取引の透明化に向けて検討を開始。9月にはYahooがコンプレックス商材の行き過ぎた広告表現を禁止し、12月にはネット広告の品質改善・向上に向けてネット広告の品質を第三者認証する機構「JICDAQ」が設立され、ネット広告市場の健全化に向けた前進が続きました。
一方、11月にはWebサイトのデータ転送量のうち平均44%は広告であるとの調査が発表されました。同調査によると、コンテンツサイトの多くでそのデータ転送量の半分以上を広告が占めており、そこから類推すると、スマホを持つ4人家族の場合 約2900円が広告のデータ転送量に費やしている事になるそうです。決して少なくない広告データの通信料をユーザーに負担させている事の是非については議論を呼ぶ可能性があり、今後、広告量が適切かという指標がネット広告に求められてくるのではないかと思われます。
2020/6/17
ネット広告 枠取り引きの透明化や非表示 政府検討へ
2020/9/9
ヤフー、コンプレックス商材の広告を禁止へ 〜どこまでネット広告は健全化できるか〜
2020/12/2
広告関係3団体、「デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」を設立
2020/11/11
Webサイトのデータ転送量のうち平均44%は「広告」
デジタル課税
国境を超えて活動するデジタル企業の法人税負担を防ぐ動き、いわゆる「デジタル課税」が欧州を皮切りに本格化しています。
去年4月、イギリスでデジタル課税が開始され、12月にはフランスが続き、今年2月には米国メリーランド州でも開始となりました。こうした欧米の動きに合わせるように、今年3月、日本でも経産省が法整備の検討が開始しました。
デジタル課税はまだ議論・交渉中の段階であり、米国は課税国に対して何らかの対応措置を調整中だそうです。日本での采配を中心に、今後の動向を見守りたいところです。
2021/2/16
全米初のネット広告税
2021/2/27
米、GAFA標的にデジタル課税容認 G20会議で 7月合意も
2021/3/1
デジタル課税の法整備検討 経産省、今夏取りまとめ
【まとめ】
2020年3月頃より猛威をふるい始めたコロナ禍の発生から、およそ1年が経過。世界的な景気悪化に見舞われ、日本の広告費は9年ぶりのマイナス成長となりました。
一方、外出自粛によって急速なオンライン化が進み、「巣ごもり消費」「応援消費」といった新しい消費スタイルが生まれました。余暇の過ごし方としてテレビやラジオなどの非デジタルメディアの価値が生活者に広く評価され、非デジタルメディアのデジタル領域への進出が加速しています。また、ECの盛況はめざましく、ソーシャルコマースを始めオンラインでの顧客接点の創出方法が高度化しています。
同時に、web上の行動や表現に対する安全性の確保が本格的に求められるようにもなりました。Googleによる3rd Party Cookieの規制強化によりターゲティング広告の精度が大幅に下がるため、代替技術のキャッチアップが必要です。さらに、広告表現が適切かといった倫理的正しさや、適切な広告量かどうかも追求していく必要がありそうです。
人々がどのように暮らしているか、実際に目で見る事ができないために観測しづらく、実態をつかみにくい昨今です。生活者との現実世界での接点が希薄だからこそ、生活者は何を思い、どのように過ごしているかを、今まで以上に想像力たくましく、時に行動しつつ(安全第一で!) “100年に一度”といわれる滅多にないこの状況を存分に進んでいきましょう!
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