シリーズ「SDGsの基礎を学ぼう」~ゴール1:貧困をなくそう~
こんにちは。トランスコスモス株式会社 DEC統括 兼 トランスコスモスSDGs委員会 編集員のナリタカです。今回の記事はシリーズ「SDGsの基礎を学ぼう」~ゴール1:貧困をなくそう編~をお届けします。
早速ですが、SDGsの中に出てくる「貧困」という言葉には2種類あります。
1つ目は「絶対的貧困」で、人として生活するうえで本当に必要最低限、これくらいはないと難しい、というレベルが満たされていない貧困のことです。一般的に「貧困」と聞いた時には、こちらをイメージする方が多いのではないかと思います。
2つ目は「相対的貧困」で、これは人として生活するうえで必要最低限のレベルは満たしているものの、ある国全体の水準と比較して貧しい状態、つまり「周りの人と比べて貧しい」状態です。
SDGsでは、「貧困をなくそう」というゴールを設定して、世界から絶対的貧困・相対的貧困をなくそうとしています。
絶対的貧困とは
まずは「絶対的貧困」に迫ってみたいと思います。
SDGsでは、国際貧困ラインに基づき、絶対的貧困を「1日1.25ドル未満(※)で生活する」と定義しています。日本円に直すと約138円です。(記事執筆時点)
ちなみに、この国際貧困ライン1.25ドルは、SDGs採択の後に1.9ドル(日本円:約210円)にあがっていますので、実質的なターゲットは1.9ドルとなります。
日本だとコンビニで飲み物とパンを1つずつ買って終わりですね。こうした極度の貧困が世界に存在すること自体は、私たちも学校教育や家庭、メディアを通して知っています。
が、なぜ貧困が存在するのか?ということを考えたことのある人はそれほど多くはないのではないでしょうか。
多数の要因が複雑に絡まり合っているため、これが貧困の原因だ、と断定するのは困難です。
例えば、内戦や紛争で住む場所を追われてしまい難民になると、当然のように貧困状態に陥ってしまいますので、戦争は貧困を引き起こす大きな要因といえます。
また、内戦や紛争が続くということは、その国の行政が安定していないということです。行政が安定していないと、水や電気、衛生、医療、教育などの公共サービス・インフラを行き渡らせるのが難しくなります。その時代に生きる人が困難な思いをするだけでなく、次の世代を豊かにするための準備をすることも難しくなってしまいます。
中でもアフリカ地域の状況は深刻です。この地域は、歴史的に、ヨーロッパ諸国によって植民地として分割して支配されていました。
その分割の際に、民族や文化を考えずにヨーロッパ諸国の都合で境界線を引いてしまったため、その影響でアフリカ諸国は現在、一つの国にいくつかの民族が一緒に暮らす多民族国家になっています。そういった背景もあり、現在も内戦や紛争が絶えない地域の一つです。また、地理的な要因で干ばつが多かったり、農業生産も十分とは言えません。
そのアフリカ諸国の中でも特に貧しい国とされている、南スーダンという国があります。南スーダンは、内戦や紛争を経て2011年にスーダンから独立した国です。そして、独立後の南スーダン内部でも更に内戦や紛争が頻発し、現在600万人以上の人が食料の援助を求めているといわれています。600万人といえば、千葉県の人口くらいです。
南スーダンというとピンと来ないかも知れませんが、「千葉県に住んでいる人たち全員が食料不足で苦しんでいる」と置き換えて考えてみると、貧困問題が身近で、解決が急がれる問題に感じられるのではないでしょうか。
現在、世界全体で7億人以上の人々が極度に貧しい暮らしを強いられていて、その3割は9歳以下の子どもです。当たり前ですが、人は生まれる国を選べません。
たまたまお金をもっている国に生まれた私たちは、たまたまお金をもっていない国に生まれた人たちが、今日食べるもの、明日食べられるものに困らないために行動するべきだ、というのが、SDGsの「貧困をなくそう」の根底にある考え方です。
まずは、世界の貧困の現状を知ることから初めてみてはいかがでしょうか。
相対的貧困とは
つぎに、SDGsが定義するもう一つの貧困「相対的貧困」についてです。
人として生活するうえで必要最低限のレベルは満たしているものの、ある国全体の水準と比較して貧しい状態、つまり「周りの人と比べて貧しい」状態です。この相対的貧困も、SDGsがなくそうとしている課題の一つです。
日本は世界の中でも先進国で、豊かな国というイメージを持っている方は多いと思います。そんな日本が、実は貧困問題を抱えていると聞くと驚きなのではないでしょうか。日本が抱えている貧困問題とは、先述した「相対的貧困」です。
日本の相対的貧困率は、2018年時点で15.4%と、約6人に1人が「周りの人と比べて貧しい」状態にあり、これは先進国の中でもかなり高い方に位置します。(2019年国民生活基礎調査の概況より。https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/index.html)
日本での相対的貧困の基準は「収入から税金や社会保険料などを引いた、生活のために使えるお金」が年間127万に満たないこととされています。(2019年国民生活基礎調査の概況より)
相対的貧困率の大きさは格差の大きさを表していて、日本も「格差社会」とよく言われますが、格差社会の中を詳しく見てみると、格差の先には貧困があります。
必ずしも「お金がある=幸せ」ではないですが、お金があったら回避できた苦難を、お金がないことによって回避できない状態は、人の幸福感に大きな影響を与えてしまいます。
日本では特に高齢者世帯や一人親世帯の相対的貧困率が高いといわれていますが「一人親世帯」という言葉の中には「子ども」が含まれています。
子どもの貧困は日本が抱える社会問題の一つで、日本の子どもの13.5%、約7人に1人が相対的貧困状態にあるとされています。(2019年国民生活基礎調査の概況より)
大前提として、子どもが幸せに暮らせる環境を用意するのは社会の責任です。そして、未来を担う子どもの7人に1人に、その能力を最大限発揮するための十分な発育環境を用意できていないとすれば、果たしてその国の未来は明るいものになりますでしょうか。
日本では「自己責任」という言葉が頻繁に使われてきました。この言葉は「自分で頑張って何とかなる部分は自分で何とかするべき」と言い換えられます。確かに、社会を作り支える大人として当然必要な考え方ですし、この考え方があるからこそ社会が成り立っているとも言えます。
しかし、「どこまでが自己責任なの?」というのは単純に答えが出る問題ではなく、この自己責任によって格差や貧困の存在が正当化されてはいけないと思います。「貧困になったのはその人のせいだから、放っておけばいい」では、子どもの貧困問題もしかり、持続可能な社会とは言えません。
相対的貧困、特に子どもの貧困は私たちが取り組まなければならない課題です。私たちは、自分の力でどうにもならないことからは目を背けてしまいがちです。ですが、みんなで力を合わせて数え切れない数の問題を解決してきた結果、社会は発展してきました。
みんなを動かすのは、問題に気づいた一人の行動です。まずは、自分自身が持続可能な範囲で、できることをすれば良いと思います。
今後もシリーズ「SDGsの基礎を学ぼう」では、「聞いたことはあるけど詳しくは知らない」「何となく理解しているけど言葉にして説明はできない」となりがちな、SDGsの各テーマの基礎的な知識について、言葉にして説明できるレベルで知っていただけるような記事を提供していきます。