
実証実験で終わらせない AI時代の社会実装と官民連携の新常識
※本記事は2026年9月2日にトランスコスモスSDGs委員会に掲載された記事を転載しています。 |
2026年8月26日から27日に開催された「AI博覧会 Summer 2026」において、トランスコスモス 上席常務執行役員/公共政策本部 本部長の高山智司が、LobbyAI代表 髙橋氏、Essen代表 橘氏とともにパネルディスカッション「AI時代の官民連携をアップデート」に登壇しました。
近年のAI技術の進化により、企業の持つソリューションやサービスは急速に高度化しています。
一方で、優れた技術があっても実証実験(PoC)で終わってしまい、社会実装や本格導入に至らないケースも少なくありません。
今回のセッションでは、官民連携の最前線で活躍する登壇者が集まり、
・なぜ実証実験で止まってしまうのか
・社会実装を実現する企業は何が違うのか
・AI時代における行政・自治体との連携はどう変わるのか
について議論が交わされました。
セッションでは「技術が優れていること」と「社会に実装されること」は必ずしも同義ではなく、相手の課題や政策背景を深く理解したうえで提案することの重要性が議論されました。AI活用が進む時代だからこそ、技術起点ではなく課題起点で考える視点が求められるとの意見も共有されました。
今回は、セッションで語られた内容から、社会実装を成功に導くヒントをご紹介します。

(左から)
トランスコスモス株式会社 上席常務執行役員/公共政策本部 本部長 高山 智司
LobbyAI株式会社 代表取締役 髙橋 京太郎氏
株式会社Essen 代表取締役 橘 健吾氏
目次[非表示]
社会実装の成否は「何を話すか」ではなく「誰と話すか」
まず登壇者からは、自治体や省庁との連携において「誰と話すか」が重要なポイントであるとの考えが示されました。登壇者によると、企業が自治体や省庁にアプローチする際、まず総合窓口に相談するケースも少なくないとのことです。
しかし実際には、
・担当部署が分からない
・管轄が複雑
・関係者が多い
といった理由から、調整に時間を要することもあると紹介されました。
一方で、政策の議事録や委員会資料、自治体議会の記録などを分析することで、
・誰がその課題に関心を持っているのか
・どの部署が担当しているのか
・どのような問題意識を持っているのか
を把握できると説明されました。
また、近年はこうした公開情報をAIで整理・分析することで、関係者や政策動向を効率的に把握できるようになっていることも紹介されました。
行政は「技術」ではなく「課題解決」を見ている
続いて登壇者からは、行政との対話においては技術そのものよりも、その技術がどのような社会課題の解決につながるかが重視されるとの考えが共有されました。
例えば、
・脱炭素
・人口減少
・防災
・インフラ老朽化
・地域活性化
といった社会課題です。
行政にとって技術は目的ではなく手段です。
そのため「私たちのAIは優れています」 ではなく、 「このAIによって地域の高齢者支援が可能になります」 「インフラ維持コストを削減できます」 といったように、課題解決につながる価値を伝えることが重要であるとの見解が示されました。
セッションでは、このような “課題起点” での提案が社会実装につながる重要な要素の一つであると紹介されました。
政策形成の初期段階からの関与が重要
登壇者からは公共分野での事業化を目指す場合、入札や公募の段階だけでなく、その前段階となる政策形成や課題検討のプロセスを把握することが重要であるとの指摘がありました。
実際の政策形成は、 課題認識 ⇒ 検討 ⇒ 実証 ⇒ 予算化 ⇒ 公募・入札という流れで進むことが多く、公募や入札の段階では、すでに事業の方向性や予算の枠組みが整理されている場合もあると説明されました。
そのため課題が議論され始めたタイミングで、
・応用可能な技術
・補助金や制度の活用方法
・関連する国の政策との整合性
などを踏まえて提案していくことが、社会実装につながるとの見解が示されました。
社会課題は国がすでに言語化している
セッションでは、多くの社会課題が政府の政策文書の中で整理されていることにも触れられました。
例えば、
・骨太方針
・成長戦略
・デジタル田園都市構想
・GX(グリーントランスフォーメーション)
・DX推進戦略
などです。 これらの政策資料からは、
・国が重点課題としているテーマ
・今後予算が投じられる方向性
・普及を後押ししようとしている取り組み
を把握することができると説明されました。
議員と行政、それぞれが求めているもの
興味深いテーマの一つとして、行政と議員では重視する視点に違いがあることも紹介されました。
行政が重視するものは、
・住民サービス向上
・QOL向上
・政策目標達成
などです。 一方で議員が重視するのは、
・地域課題の解決
・住民満足度向上
・有権者の声への対応
といった観点を重視する傾向があると紹介されました。
自治体議会の議事録を確認することで地域ごとの具体的な課題を把握し、提案内容の精度向上につなげることができるとの説明もありました。
AI時代だからこそ、原点に戻る
AIによって多くのサービス開発が容易になっている一方で、技術そのものだけで差別化することが難しくなりつつあるという見方も示されました。その中で重要になるのが、
・相手を理解すること
・課題を理解すること
・社会を理解すること
です。
髙橋 京太郎氏は「それぞれの立場へのPMF(Product Market Fit)が重要である」と語りました。
PMFとは、本来は製品やサービスが市場ニーズに適合した状態を指しますが、ここでは行政・議員・企業それぞれの立場や目的を理解し、それに応じた価値を提供することの重要性を表した言葉として紹介されました。
行政には行政の目的があり、 議員には議員の目的があり、 企業には企業の目的があります。こうした違いを理解することが、官民連携の第一歩であるという考えが共有されました。
まとめ|官民連携の成功は “情報の解像度” で決まる
今回のセッションを通じて見えてきたのは、AIは単なる業務効率化ツールではなく、社会課題や政策動向への理解を深め、官民連携を支援するツールとして活用され始めているということです。
また、社会実装を実現するためには、
・誰か課題をかかえているのか
・今どのよう政策が進められているのか
・どの課題が予算化されるのか
・行政や政治は何を重視しているのか
を理解し、課題起点で提案することが重要であるということです。
トランスコスモスは、これまでも公共分野をはじめとするさまざまな領域で、デジタル技術を活用した社会課題解決に取り組んできました。今回のセッションで示された「相手の課題を深く理解し、適切なパートナーと連携する」という視点は、今後の社会実装や官民連携を考えるうえでも重要な示唆となりました。
AI時代だからこそ、技術そのものではなく、その技術によってどのような価値を提供できるのか。今回の議論は、その本質を改めて考える機会となりました。










