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高山智司事務局長×森本英香氏 〜新しい価値創造の時代に、持続可能な社会実現について〜


みなさん、こんにちは。「トランスコスモスSDGs委員会オープン社内報」編集部のs子です。今回は、環境省で環境問題に長年取り組んできた森本英香さんと高山智司事務局長による、「企業もSDGsに積極活動をしなくてはならなくなってきた!新しい価値創造の時代における、持続可能な社会実現について」をテーマにしたクロストークをお届けします。


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森本英香氏 プロフィール


大阪府出身 1957年1月生 1981年環境庁入庁。

環境省大臣官房長、原子力規制庁次長、原子力安全規制組織等改革準備室長(内閣官房内閣審議官)、環境省大臣官房審議官(自然保護担当)・総務課長・秘書課長のほか、国際連合大学(UNU)上級フェロー、East West Center研究員(アメリカ)、地球環境パートナーシッププラザ所長、地球温暖化京都会議(COP3)議長秘書官等を経て、2017年7月より環境省 環境事務次官。

東京大学法学部私法学科、政治学科卒。

現在は早稲田大学 法学学術院 法学部 教授を務める。


目次[非表示]

  1. 環境省の原点は「弱いものの味方」であること
  2. 国際社会のなかの、企業の在り方・国の役割
  3. 経営層から従業員まで、広く問題意識を浸透させるには。
  4. 2040年にむけ「ローカルSDGs」ビジネスに注目
  5. サーキュラーエコノミーが「持続可能な社会」を実現する

環境省の原点は「弱いものの味方」であること

高山
世間がSDGsに非常に関心が高くなってきているタイミングですが、森本さんが環境省でこれまでどのような取り組みをされてきたのか教えてください。


森本
僕が環境庁に入ったのは1981年、当時は「公害対策」が、一番メインの仕事でした。


高山
ブラジルで開催された地球サミット(国連環境開発会議)があった頃ですね?


森本
そうですね、サミットの開催は92年でしたから。それまでももちろん地球環境問題はありましたが、政治的な課題になったのがその年でしたね。そのときに「気候変動枠組条約」「生物多様性条約」の2つの条約ができたのです。


高山
森本さんも当時、地球環境問題に関心はありましたか?


森本
もちろんありました。ありましたけど、僕が入った時代は世の中的には、まだそれほど大きな問題意識はなかったかと思いますね。やはり公害問題のほうが大きく、実際の仕事としても、水俣病訴訟や大気汚染訴訟などの解決に携わってきました。

ただ、そのなかで、たくさんの方と話を重ねるうちに政治の力をというのも理解しましたし、壁の高さも実感しました。その後、2001年に環境庁から環境省に変わり、その頃には主たる課題が地球環境問題へと移りました。


高山
取り組む対象が変わり、変化はありましたか?


森本
皆が取り組みはじめると今度は「環境省って何をしているところ?」と言われることも。例えば今「カーボンニュートラル」が注目されていますが、発信元としては経済産業省もありますよね。そうすると、環境省のオリジナリティがなかなか見出しにくいんです。

でも、原点でいうと環境庁時代に取り組んでいた、公害だったり自然破壊だったりを通して、“弱者の味方”であるいう意識があります。それは「人」だったり、「地球」だったりするのですが、とにかく痛めつけられている“弱い何か”に向き合うことが、環境省のミッションだなと思っています。

国際社会のなかの、企業の在り方・国の役割

高山
環境問題は規模が大きくなり、SDGsでは民間も巻き込むことになりましたね。


森本
いいことだと思いますよ。僕自身、MDGs(ミレニアム開発目標)からSDGsに転換された2015年ってすごく大切な年だと思っています。それまでは、地球環境問題はどちらかというと国連や国の仕事のような意識でした。民間も加わることで、環境に取り組むことが成長もつながるということを、広く理解いただけるようになりましたから。

もうひとつはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース/Task Force on Climate-related Financial Disclosures) により、オフィシャルに行動する必要がでてきたことです。そこでまず動き出したのは、投資家や金融機関というお金を握ってる人たちでした。「地球環境問題」へ真面目に取り組まないと、トータルで見たときに自分たちにリスクがあるかもしれないというのを意識してメカニズムを作り始めました。メカニズムができると今度は企業は、取り組まないことがリスクに。


高山
あるのにやらないってことは、高リスクですよね。



森本
そうなんです。さらにもうひとつ言うと、ちゃんとやっているかどうかが、今まではあまり見えなかったものが、情報公開しなくてはいけないルールの義務化が広がったことです。ヨーロッパではすでに義務化されていますし、日本も東証や金融庁がガイドラインでの公表を求めるようになりました。みんなオープンな状態で勝負しようということです。

投資家は1年、2年で若干稼ぐことよりも10年、20年を安定的に一定の利益を得ることの方が重要です。そうすると、気候変動などにきちんと対応できている企業でないと、10年後20年後にリスクがあるわけで。「気候問題」が最初に注目を浴びた課題で、その後ESGやSDGsへと移りました。


高山
日本の会社でも、去年ぐらいから急激にESGやSDGsに取り組まなくては…と動きが活発に。企業としてはコンプライアンスを超えて、何かしなくてはいけないわけですが、環境省やあるいは国としてはどのような役割がありますか?


森本
そうですね。まずは「情報開示」と言っても、一体どういう情報を開示すればいいかということは問題ですよね。実は企業のESGを評価する会社は世界中に600ぐらいあるのですが、それぞれがバラバラなので評価を一本化しようという動きがあります。

すでにアメリカとヨーロッパは先に動いていて、日本がそれに参画する形なのですが、そのような国際ルールができるときに参画をして、ルール作りをするために動いています。金融庁が中心となり、環境省と経産省で勉強会を行なう形です。

経営層から従業員まで、広く問題意識を浸透させるには。

高山
なるほど。そういう大きい流れがあって、全体を把握してる会社ももちろんあると思うのですが、会社の中ひとつみても経営層は知っていても従業員のところまでは届かないという現実もあると思います。どう浸透させていくのかというのは課題ですよね。



森本
「従業員も意識してもらう」というのは本当に難しく、みんなそこで悩んでいます。経営者は外部や投資家との接点もあるので、問題意識が高いんです。でもその問題意識を共有できるかっていうと、現場の人々は目の前の自分の仕事とどういう関係があるのか、見えにくいというところがあるんです。そこはですね、やはり経営陣がどうメッセージを発信するかにかかっていると思うんですよね。

ポジティブに捉えたら、お客様にこれまでの提案プラスSDGsを付加価値として提案することができる…というところにまで、頭がまわるように社員に働きかけるということができたらいいですよね。


高山
BtoC企業で大きなお客さん向けの商品を作ってるところは、まだやりやすいと思うんですよね。弊社もですが、BtoBの企業はお客様に対してどういうお手伝いができるのかっていうのが、今あまり見えてない。悩んでいるところもいっぱいあると思うんですよ。官民協働や大学などと、どこかと連携する必要がありそうですよね。

ところで森本さんは環境省に長く在籍されて、それこそ今どき公害を出す会社というのはもうないじゃないですか。それははやり世論の影響ってありますか?


森本
そうですね、あると思います。例えばドイツなんかは、緑の党が3割近く。あれぐらいになるとですね、世論的にも環境って大事となりますよね。世論が大きいと政治のコアの部分もそこからできるという構造はおおいにありますね。

2040年にむけ「ローカルSDGs」ビジネスに注目


高山
森本さんがよく講演などでキーワードに出される「ローカルSDGs」の考え方は、非常に興味深いなと思っていて、これは「地域」もポイントなのかと思っているのですがいかがですか?


森本
そうですね。環境省でも「地域循環共生圏」(※)というのを提唱しているのですが、これが結構、共感を得ておりまして。

(※)各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方のこと。農山漁村も都市も活かす、我が国の地域の活力を最大限に発揮する構想であり、その創造によりSDGsやSociety5.0の実現にもつながる。「地域循環共生圏」の創造による持続可能な地域づくりを通じて、環境で地方を元気にするとともに、持続可能な循環共生型の社会の構築を目指す。http://chiikijunkan.env.go.jp/

コロナの影響もあると思うのですが、不測のリスクに備えてある程度地域が自立したコミュニティをしっかり作っておかないとだめだよね、となったんですよね。今までみたいに東京中心の社会だけではなく、分散型の社会が重要だと。そのためには、地域の資源にもっと着目しましょうと。それはエネルギーであったり、あるいは公的な資源だったり、観光資源などいろいろありますが、そういうものをおおいに活用していこうということです。

ここでポイントになるのは、ただ単に「バイオマス発電をしています」で終わるのではなく、そこに住む人の暮らしと結びついていることです。ストーリーを作るのは大変ですが、これこそが「ローカルSDGs」。


高山
大企業はローカルにどのように関わっていくかですね。


森本
そうですね、ひとつ例があるのですが、警察も維持できないほどの小さな田舎で、警備会社が治安維持を請け負うとかもありますね。


高山
なるほど、公的な業務をはじめから請け負うというのはひとつありますね。高齢者人口がピークになる2040問題は公務員に課さられた課題でもあり、ここにビジネスチャンスがありますね。


森本
はい。「環境」と「経済」と「社会」の同時解決をするときに、今までは「社会」のところは「公」がやるのが当たり前でしたが、そうじゃなくてもいいですよね。そんなに大きく稼げないかもしれませんが(笑)。


高山
でも、大きくは稼げないけど、持続可能性はとても高いですよね。公的なサービスがなくなったらめちゃめちゃ困りますから。僕もせっかく民間企業に在籍しているので、新しいビジネスを作っていきたいなと思っているんです。


サーキュラーエコノミーが「持続可能な社会」を実現する

高山
持続可能な社会の実現のために、森本さん自身が今取り組んでいることはありますか?


森本
今手がけているのは「森」ですね。Googleも買うなどして「森」は注目はされているのですが、ただ持っているだけだと意味がなく、きちんと管理されて木を健全に育てることが重要。

しかしそのようにきちんと管理していても評価がまだ追いついてないのが現状なんです。抽象的にふわっとしたいいイメージはあるのですが、定量化で評価されるような仕組みを作りたいんです。そうするとビジネスにもつながりますし。他には、「地域カーボンニュートラルセンター」というのも手がけました。


高山
森本さんは現在に至るまで、これだけ色々なことに携わってきておられ、まさに必要な情報を教えてくれる人がなかなかいない中で、今、絶対的な存在だと思うんですよね。

弊社も、アウトソーシングは伸びることは分かってますし、デジタルトランスフォーメーションで今は黙ってても仕事はあるんだけれど、そこだけやってても、ただのITベンダーになってしまうので、将来を見据えてビジネスを立てておかないとって思っています。


森本
そう意味でいうと、今、日本では脱炭素ばかりが注目されていますが、ヨーロッパはちょっと違っているんです。脱炭素とサーキュラーエコノミー(循環経済)は完全にパッケージされていていて、全部あわせてDXを繋げるとものすごく付加価値が高まるよね、と。


高山
サーキュラーエコノミーは日本ではまだ一部ですよね。


森本
そうなんです。EUでは電池を作るときに、リチュウムの27%は、リサイクルしたものを使うと決めるとかあるんですよね。


高山
設計段階でルールをつくっているんですね。大事ですよね。


森本
ヨーロッパがなぜそのようなことをしているかと言うと、エネルギー的にも資源的にも自立してないので、それが心配だからです。


高山
日本だって同じですよね。


森本
そうなんですよ。同じようにみんなが危機感を持ってくれると、広がっていくはずなんですけどね。


高山
サーキュレーションエコノミーは弊社の次の課題にも入れていきたいと思います。


森本
そうすることで、さらに伸びしろができると思います。


高山
楽しみですね。ぜひ色々と連携させていただきながら、進めていけたらと思います。

本日は、ありがとうございました!


trans+(トランスプラス) 編集部
trans+(トランスプラス) 編集部
ITアウトソーシングサービスで企業を支援するトランスコスモス株式会社のオウンドメディア編集部。メンバーはマーケター、アナリスト、クリエイターなどで構成されています。

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