
日本企業のDXはこんなにも遅れている!? デジタル白書2023から学ぶDX推進成功のカギとDX人材育成戦略
経済産業省は2023年3月に、企業のDX推進の状況をとりまとめた「デジタル白書2023」を発行しました。
この白書では、日米企業へのアンケート調査結果の経年変化や最新動向、国内DX事例の分析に基づく取り組み状況の概観、DX推進への課題や求められる取り組みの方向性などについて解説されています。
そこで、本記事では本白書のアンケート調査結果からみえてくる、日本企業のDX化の現状と課題をご紹介します。
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日本企業のDXの取り組み状況
本白書の印象的なサブタイトルである “進み始めた「デジタル」、進まない「トランスフォーメーション」” を表す調査結果が出ています。
DXの取り組み領域ごとの成果をみると、“アナログ・物理データのデジタル化” や “業務の効率化による生産性の向上” について成果が出ていると回答した企業は日米で差がないのに対し、“新規製品・サービスの創出” や “顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革” といったデジタルトランスフォーメーションについては日米で3倍以上もの差があります。
このことから分かるように、DXの1つ目の要素である「D」つまりデジタル化は危機意識と共に推進されている一方で、2つ目の要素である「X」トランスフォーメーションは、その意味が理解されておらず、取り組みが進んでいません。
トランスフォーメーションとは、その組織の文化が変わることであり、ビジネスの在り方を含めた経営の問題のことを指します。デジタルはあくまで経営変革のための方法・手段でしかありません。
そのため、まずは経営者がDXについて深く理解し、何のため誰のためにビジネスをしているのかというビジョンを全従業員へ提示したうえで、DX推進におけるリーダーシップを発揮する必要があります。
そして、顧客価値の創出やビジネスモデルの変革など、本来の目的を達成するためには、マインドシフトやイノベーションが起こりやすい環境を整備し、組織のミッションに合致したKPIを設定し達成することで、デジタルを活用した新規ビジネスの創出に取り組む姿勢を根付かせることが重要です。
さらに、デジタル白書2023では、DX推進のためにもうひとつ重要なこととして “人材の確保・育成” を挙げています。
DX人材確保・育成の現状と課題
DX推進の取り組みにおける人材確保の考え方について、デジタル白書2023では大きく3つに分けて調査を行っています。
◆人材像の設定・確保
DX推進のために必要な人材像を設定し、それを社内に周知、組織として目指す方向性の共通理解を醸成し、それをもとに人材を確保・育成する
◆キャリアサポート
DX人材のキャリア形成、キャリアサポート、学び直しなどに積極的に取り組む
◆評価基準・フィードバック
DX人材のための新たな評価基準を定め、評価の実施・見直し、フィードバックを行うことで人材の定着化を図る
このなかでも特に、人材像の設定・確保に関する調査結果から、日本企業のDX推進における様々な課題が見えてきました。
まず、DXを推進する人材像を設定しているかについては、日本と米国で2倍以上もの差があります。
さらに、DXを推進する人材の「量」については2022年度で日本企業と米国企業でおよそ7倍もの差が見られ、さらに日本企業に限定して詳しく見ていくと、人材像の設定・周知ができているかどうかが人材の確保に大きな影響を与えていることが分かります。
また、DXを推進する人材の「質」について尋ねた場合も、日本企業では不足していると答える割合が多く、急速なDX人材の需要増に対し、確保・育成が追い付いていないことがうかがえます。
人材の確保に関する課題について、日本企業では “社内人材の育成” や “既存人材(他部署からの異動も含む)の活用” について課題を感じていると回答する割合が多く、驚くことに “人材確保を行っていない” と答えた企業が11.5%も存在しています。
一方、人材の育成や活用に課題を感じていると答えた日本企業が多いにも関わらず、人材の育成方法については “実施・支援なし” の回答が全項目で4~7割も存在します。
米国では “DX案件を通じたOJTプログラム” などを積極的に行っており、DX人材の育成に注力している様子が読み取れます。
そして、人材育成の課題について “支援はしていない(個人に任せている)” と回答する日本企業は米国企業と比べて約6倍にものぼり、人材の確保・育成への関心の薄さは深刻であると言わざるを得ません。
このほかにも、“DXを推進する人材のキャリアサポート” や “デジタルリテラシー向上のための学びなおし(リスキル)の機会の有無” “従業員のデジタルリテラシー向上のための具体的な取り組みの有無” そして “企業の目指すことのビジョンや方向性が明確で社員に周知されているか” についても日米企業で比較していますが、いずれも米国企業に比べて日本企業の取り組みは大きく遅れており、全般的に「DXの推進において人材が課題」という状況が顕著に表れた結果となっています。
「DX銘柄2023」認定企業から学ぶDX人材育成の取り組み
経済産業省は2020年から、デジタル技術を前提としてビジネスモデル等を抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていく「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に取り組む企業を、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」として選定しています。
DX銘柄認定企業は、ビジョン・ビジネスモデルや戦略だけでなく、組織づくり・人材・企業文化に関する方策など人材育成への取り組みも評価項目となっています。
そこでDX銘柄認定企業より、特に人材育成が評価された取り組みの一部をご紹介します。
<参考>経済産業省 DX銘柄2023
旭化成株式会社様の取り組み
2021年から3年連続で選定されている旭化成株式会社様では、DXの取り組みについて特に、“幅広い分野での多面的なデジタル化の取り組み、DXの定着に向けた人材育成や企業文化の醸成が高く評価された” と述べています。
2021年5月に『Asahi Kasei DX Vision 2030』を策定し、旭化成グループが目指すDXの姿を明確にすると同時に、“人財・雇用に対する考え方” や “人財の育成・活躍” について明確な目標・目的と、そのために必要なDX人材の確保・育成に関する考え方・取り組みを共有することで、全社一丸となってDX推進に取り組むための風土が醸成されています。
また、DX人材の量と質を確保するための取り組みとして、デジタルプロフェッショナル人材を2021年比で10倍にすることなどを盛り込んだ『DX-Challenge 10-10-100』を目標に掲げており、全従業員向けのDX教育を強化し、独自に設計したオープンバッジ制度によってスキルの見える化をするなど、研修プログラムにも力を入れています。
出典:人財 | 社会 | サステナビリティ | 旭化成株式会社
出典:戦略 | デジタルトランスフォーメーション | 企業情報 | 旭化成株式会社
<参考>
・Asahi Kasei DX Vision 2030
https://www.asahi-kasei.com/jp/company/dx/
・戦略 | デジタルトランスフォーメーション | 企業情報 | 旭化成株式会社
https://www.asahi-kasei.com/jp/company/dx/strategy/
ダイキン工業株式会社様の取り組み
2020年に続き2回目の選出となったダイキン工業株式会社様(以下、ダイキン工業)では、先進的なデジタル技術の導入を進めると同時に、人材育成とビジネス戦略をリンクさせ、多面的なデジタル化を推進しています。
なかでも特にユニークな取り組みとして、『ダイキン情報技術大学(DICT)』があります。
“業務推進にあたり、デジタル技術が分かる・使える・テーマを推進するDX人材” の育成を目的とし2017年12月に開校。毎年約100名の新入社員が専門講師の指導のもと2年間、通常業務を行わずITの基礎知識から学び、2023年4月時点で累計390名の修了生を輩出しています。
そして修了生が所属部門でAI活用を推進し様々な仕組みの構築に取り組むことで、より付加価値の高い製品やサービスの創造、新たなイノベーションの創出を実現しています。
ダイキン工業がDX人材の育成に力を入れ、外部からの採用ではなく自社での育成にこだわる理由は、“デジタル人材の獲得競争が激化していたこと” そして “経営課題であるDX加速の担い手として、独自技術や顧客ニーズ、空調の納入現場などの知識を併せ持ち、DXによる事業変革を牽引する人材が必要であること” と述べており、自社事業のプロフェッショナルであるDX人材のつながりこそが、DX推進をしていくうえでの財産になるとしています。
ダイキン情報技術大学で育成するデジタル人材について
出典:ダイキンのDX人材育成
<参考>
・サステナビリティレポート|CSR・環境|ダイキン工業株式会社
https://www.daikin.co.jp/csr/report
・「新卒390人のDX人材育成」が現場に起こす変革
https://toyokeizai.net/articles/-/665853
・ダイキンのDX人材育成
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000971051.pdf
株式会社小松製作所様の取り組み
2023年より新設された “特に傑出した取組を制度開始当初から継続している企業” に与えられる『DXプラチナ企業2023-2025』に選定された、株式会社小松製作所様(以下、小松製作所)では、「社員は一人ひとりが高い目標を設定し、自立・自走して知識・スキルを習得する」「会社は会社(経営)と社員に必要な教育を重点的に実施し、社員のキャリア形成を支援する」という方針のもと、会社と社員の持続的な成長のための取り組みを実施しています。
小松製作所の強さ、強さを支える信念、基本的な心構えと持つべき視点、それを実行に移す行動様式(スタイル)を明文化した『コマツウェイ』を大事にし、社員の教育や研修にコマツウェイの教育を取り込むことで、全社員への伝承・定着をはかり、DXを推進する人材を育成するための風土が醸成されています。
また、デジタル人材・オープンイノベーション推進人材の育成に注力し、2019 年度から「AI人材育成プログラム」をスタート。
独自のカリキュラムで、AIに関する知識・技術に加え、ビジネス課題をAIで解決できる問題に変換する能力、先端企業と連携してプロジェクトを推進する能力を持つ人材の育成を行うと同時に、産官学連携をより加速させるために社内外のプログラムの実施・活用などを進めているとしています。
企業の持続的成長には社員エンゲージメントの向上が不可欠
<参考>
・コマツウェイ・人材の育成に関する方針
https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/87
・人材育成の取り組み - コマツ
https://www.komatsu.jp/ja/-/media/home/ir/library/annual/ja/2022/kr22j_09.pdf
・「DX銘柄2023」選定企業レポート
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dxstockreport-2023.pdf
これらのDX銘柄認定企業の取り組みをから分かるように、“DX人材の育成を軸にした施策” が現在の日本企業のDX推進において最も評価され、最重要視されています。
デジタル技術やプロセスを理解し、適切に活用できる人材を育成することで、組織やビジネスに新たなDXのアイデアや知見をもたらし、 DXの推進力となり得ます。
そのためにも、自社の今後を担う人材を育成するための投資や、全社をあげた取り組みを加速していくべきではないでしょうか。
<参考>
デジタルスキル標準
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html
デジタルガバナンス・コード2.0
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913002/20220913002.html
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