若手の意識変化に組織はどう対応する?「ブラック霞が関」からの脱却の鍵
※本記事は2024年8月19日、8月20日にトランスコスモスSDGs委員会に掲載された記事を転載しています。 |
みなさん、こんにちは!
今回はスペシャルゲストとして、元厚生労働省キャリア官僚の千正康裕氏をお招きし、官僚の労働環境について伺う特別版をお届けいたします!
目次[非表示]
「ブラック霞が関」著者:千正康裕氏インタビュー
「ブラック企業」とは、長時間労働や過剰なノルマなどで労働者に過重な負担を強いる企業を指す言葉。元厚生労働省キャリア官僚の千正康裕氏は、著書『ブラック霞が関』で在職中の経験を振り返り、中央官庁の労働環境について多角的に問題提起しています。
「良い政策をつくるためには、労働環境を変革することが必要不可欠」
そう語る千正氏に、中央官庁の働き方の課題と現状を打開する方策について伺いました。
若手の意識変化に対応することが、最大の生存戦略
――「ブラック霞が関」と呼ばれる過酷な官僚の働き方について、実態を教えてください。
中央官庁で働く官僚たちは、労働の長時間化と民間企業に比べて旧態依然とした労働環境に圧迫されています。それにより官僚たちはコア業務に集中できず、専門性の発揮や活躍が難しい状況です。
この問題については、国会対応など霞が関だけで変えられない他律的な業務の要因も大きく、著書『ブラック霞が関』でも詳しく書きましたが、国会議員の中でも課題として認識が広がり、改善傾向にあると聞いています。今日は、霞が関の中の努力で変えられることにフォーカスしてお話したいと思います。
官僚のコア業務は政策を作ること。官僚が働いているそれぞれの省庁は、法案や政策を検討する場所であり、民間企業でいうところの「商品開発部」のような役割を担っています。しかし現在は、問い合わせ対応などのコア業務以外のものに追われているのが実情。
先ほどの例で言えば、商品開発部の担当者が顧客や取引先からの問い合わせ窓口も兼任している状態です。しかも問い合わせ件数はかなりの数に上りますから、それだけでも相当なタスク量だと想像してもらえるのではないでしょうか。
長時間労働が恒常化している原因の一つは、こうしたコア業務以外のものも官僚が引き受けなければならない体制にあります。
――そうした過酷な労働環境が、官僚のモチベーションの低下や離職につながってしまい、悪循環が生まれているのですね。
特に、入省して数年目の若い世代はデジタルネイティブですから、無駄な作業に対する嫌悪感が強い。ネットを使って瞬時に情報や娯楽にアクセスできる環境で育った彼らにとって、非効率とわかっている業務に取り組むこと自体、とても納得しづらいと思います。その上、雑務や調整業務の多くが若手に回されるため、せっかく入省しても専門性や能力が活かせずに不満が募ります。
今のベテランが若手だった頃の「遠回りでもとりあえずやってみる」という、ある種の根性論的なやり方は、もう通用しません。若手の働き方に対する意識の変化に、組織が対応できていないことが「ブラック霞が関」の根幹問題だということを、声を大にして言いたいです。
加えて、終身雇用の認識はだいぶ薄れてきていて、一生官僚として働こうと決めて入省する人はあまり多くない。今の若手世代は、民間企業と公務員を比較して就職、転職していきます。民間企業同様に、中央官庁も人材の取り合い合戦に加わっているのが実情です。
だからこそ、今の中央官庁が若手世代にとって魅力的な職場と言えるのか。働きたいと思える労働環境なのか。そういったことを今一度考え直す必要があると思います。
官僚の仕事は政策を作るという、他にはない重要な仕事です。つまり、中央官庁を支える若手の離職が増えれば、国の中枢機能も衰弱しかねない。この危機を脱却するためには、若い世代と経営管理層との間にある、労働環境に対する意識のギャップを埋めていくことが非常に重要だと捉えています。
日々安心して働きながら、個人としての成長を実感したいという若手のニーズに応じて、早急に労働環境を整えなければ中央官庁の人手不足は加速していくでしょう。
より良い政策作りのためにDXが必要
――中央官庁ではどのように働き方を変えていく必要があると考えていますか?
具体的には、現在官僚が抱えている膨大な業務を切り分けて、オペレーション業務は外部化したり、省力化したりできるようにすること。
本来であれば官僚は官庁に閉じこもっているのではなく、直接現地を視察して実情を把握したり、真に迫る情報を得られるトップランナーたちとのネットワークを構築したりする時間が必要。政策をつくるための情報収集と分析に注力できる環境作りを進めるべきです。
官僚たちが政策の検討により多くの時間を割けるようになれば、国民の実情を反映した政策が作りやすくなります。国民にとってより良い政策をつくるために、中央官庁でのDX推進は非常に重要です。そして中央官庁は、世論の後押しで変革していけます。DXは単なる業務の効率化以上に、社会的な意義があることをぜひ多くの方に理解していただきたいです。
DXでゆとりが生まれ、課題解決に注力できるように
過剰な業務量や、若手の働き方に対する意識変化などの課題についてお話しいただきましたが、ここからは「ブラック霞が関」が抱える課題の解決に向けて、より具体的なアプローチ方法を伺います。
――中央官庁でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することは、業務改善にとどまらず、旧態依然としたマインドを変革することにつながることとお話しいただきました。
官僚たちの姿は世間から見えづらく、なんとなく「冷たい人たち」という印象を持たれているかもしれませんが、彼らも機械ではありません。実際には「国民にとって良い政策が届けられているだろうか?」と不安に感じている官僚も多い。
そして、日々の業務を通じて国民の生活をより良くできたという実感や、やりがいを求めています。忙殺されて官庁を出られないことで、実際に政策を活用する自治体、民間企業、そしてユーザーである生活者の人たちの考えを知ることが難しいというジレンマに悩まされてきました。
DXが推進されれば、官僚に時間的なゆとりが生まれます。現場訪問がしやすくなり、関係者などとの対話を通じて政策作りに打ち込めるようになるでしょう。
その結果、国民の実態に即した政策作りにつながりますし、官僚自身のモチベーションも向上。ベテランが若手官僚を育成する環境も整うので、良い政策を届けるための好循環が生まれていくだろうと考えています。
――オペレーション業務の外部委託化は、民間企業をはじめ、行政サービスでも広まりつつありますね。
厚生労働省では、コロナ禍で病院の空床把握システム「G-MIS」を導入。担当者が全国の医療現場と直接やりとりしなくても、医療現場の状況を把握できるようになりました。
システムを通じてリアルタイムでデータや情報を共有できるので、実態把握にかかる時間を大幅に削減。その分、担当者は空いた時間でデータだけでは読み解ききれない部分を直接現場で確認します。従来よりも迅速に対応でき、より最適な打ち手の検討に専念できるようになった好例です。
官民共創でDXが加速する時代へ
――中央官庁でのDX推進のために、重要だと考えていることを教えてください。
キーワードは「官民共創」だと考えています。
官民を行き来する人材が活躍すると、最新技術などの知見が行政にも流入することで、産業育成や政策の改善につながっていく。官民共創により、DXが一気に加速する可能性に期待しています。
すでにデジタル庁等で推進しているような、官民を行き来する「リボルビングドア」(回転ドア)というキャリアを歩む人材は、今後さらに増えていくでしょう。そうした人材によって、民間企業の労働環境も取り入れられることで、より若手にとって働きやすい職場づくりが加速していくことにもつながります。
それから、国の政策として新しいシステムなどを導入するときに、情報共有が活発になっていれば、入札で調達する製品の性能や特性を比較・検討し、最適な製品を選択できるようになります。国民がより納得できる税金の使い方に近づくのではないかと考えています。
官民共創によって、労働環境の改善というハード面のメリットと、知識の共有というソフト面のメリットの両方が増え、より多くの課題解決が目指せるようになると思います。
官民共創の必要性と期待感は年々高まっていて、民間企業と官僚が関わる機会は少しずつ増えているところです。「一般社団法人官民共創HUB」(注:霞が関の隣の虎ノ門において官民交流の場を設置し、官民勉強会や官民共創に資するイベントの企画・運営等を推進)のような情報交換の場も、霞が関に生まれています。そうした場を活用してより一層、官民共創の動きが活発になってほしいと考えています。
千正氏へのインタビューはここまで。DX化による業務効率化と、それがより国民の実態に即した法律作りにつながっていくこと。DX化を推進する上で、官民共創がより重要になることをお話しいただきました。
実は、トランスコスモスでも自社のDX技術とノウハウを生かしながら、中央官庁の業務効率化をお手伝いさせていただいた実績があります。
トランスコスモスも中央官庁のDX化に関わっています
トランスコスモスが参画した、環境省における「事業報告書回収支援業務」では、補助金事業の支援期間終了後に発生する膨大な報告書回収・管理業務を外部委託化。環境省職員の負担を大幅に軽減し、EBPM実現に貢献しています。
EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)とは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。
従来は事業報告書の回収に伴って、膨大な数の事業者への未提出報告書の催促、手作業での書類不備のチェック、受領した報告書の保管対応などの業務が発生し職員を圧迫。各作業に時間がかかることで、報告書の全貌が翌年度までに把握しきれず、適切な時期での事業成果や効果検証が実施できずにいました。
そこでトランスコスモスではSaaS型システムを導入し、報告書の回収から確認・管理までを一元化。職員の管理コストの削減や、申請事業者の申請コスト軽減に貢献しています。その結果、報告書の内容の精度向上も確認されています。
また、システム導入と同時に、専用コンタクトセンターを開設。問い合わせや不備対応、書類催促などの人手が必要な作業を外部委託することで、タイムリーで確実な回収が実現しています。
従来は期限内の集計率が20〜30%程度だったところから、2022年度の事業報告書の回収では、92.3%まで向上。 回収する対象事業数も、4事業200件(2022年)から、24事業4,300件(2024年)まで大幅に拡大しました。職員と申請事業者、双方の業務を軽減し、オペレーションの高品質化を達成しています。
トランスコスモスは民間企業だけでなく、行政機関とも連携を進め、DXを加速させています。
これからも、社会課題解決を担う行政職員の皆さまの負担軽減や、満足度の向上を目指し、デジタルツールを利用した業務改革を支援していきます。そして持続可能な社会の実現、地域Well-beingの向上へ貢献していきます。