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CX(顧客体験価値)向上を支えるコンタクトセンターのいまとDX

スマホの普及やコミュニケーションのデジタル化を背景に、企業活動におけるCX(Customer Experience:カスタマーエクスペリエンス/顧客体験価値)が注目されてきましたが、コロナ禍を契機にさらにデジタルシフトが加速したことで、CX向上への期待は益々高まっています。

より多角的な視点からのCX向上、そして各業界・各企業の状況に則したデジタルトランスフォーメーション(DX)が必要不可欠となっている今、“顧客“と直接対話する機会の多いコンタクトセンターでは、どのようなことに取り組んでいるのか。そしてDX推進のための鍵はどこにあるのでしょうか。

2021年に新設されたDX推進本部を担当する山田さんが、2012年よりコンタクトセンター部門(現デジタルカスタマーコミュニケーション総括)責任者・2016年よりデジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括責任者を務める松原さんに、コンタクトセンターの現在地について聞き、そしてCXを支えるDXについてお話しました。


●プロフィール:

松原 健志    (Matsubara Kenshi)
取締役 専務執行役員

新卒でリクルート(現リクルートホールディングス)に入社し、電話、FAX、インターネットを活用したマーケティングサービスの企画開発およびサービス運用を担当。その後、ECソリューションのスタートアップを経て2002年にトランスコスモスに入社。マーケティングリサーチサービスの立ち上げ等を行った後、コンタクトセンター部門に異動。サービス本部長として事業拡大を推進し、2012年よりコンタクトセンター部門責任者、2016年からデジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括の共同統括責任者を務める。




山田 和宏    (Yamada Kazuhiro)
執行役員 DX推進本部 本部長

2005年トランスコスモス入社。デジタルマーケティング担当の営業としてオンサイト(客先常駐型)ビジネスの立上げ及び拡販活動に従事。Webインテグレーションサービス部部長に就任後、ニアショア・オフショアセンターの立上げやWebサイト運用のQCD向上、プラットフォームを活用した顧客の売上増に貢献するサービスモデルの開発を推進。2021年度よりお客様企業のDX推進支援を担当する本部の事業執行責任者として、主に顧客体験向上を目的とした事業戦略策定/統括PM及びプリセールス部門を担当。


目次[非表示]

  1. CX(顧客体験価値)向上への期待の高まり
  2. コンタクトセンターでの取り組み 
    1. コンタクトセンターの“あるべき姿”を見つめ直す「MVV」とは?
    2. コロナ禍で進んだ「コンタクトセンターの在宅化」
    3. 目指すは「電話のかかってこないコンタクトセンター」?
  3. デジタルトランスフォーメーション(DX)の総合的な支援へ
    1. CX向上を支えるデータの活用
    2. DX推進の鍵は、PM機能の強化

CX(顧客体験価値)向上への期待の高まり

山田: 
CX(カスタマーエクスペリエンス、顧客体験・顧客体験価値)の重要性が叫ばれて久しいですが、特にここ数年は、マーケティング・カスタマーケアなどの部門に関わらず、様々な部署の方からご相談を受ける機会が増えました。


松原:
そうですね。企業がビジネスを展開していくうえで、CXの観点は欠かせないものになりました。
CX提供の「場」としては、ECなど Webサイト、SNS、店舗、営業担当者など様々な顧客接点がありますが、トランスコスモスが数多くご支援してきたコンタクトセンターにおいても、単に「お問い合わせを受付して回答する窓口」ではなく、CX向上を通じて企業の売り上げ拡大、あるいはマーケティングの一翼を担うことへの期待が高まっています。


CX向上を支えるコンタクトセンター(イメージ)


山田:
顧客に対面で説明することができないコロナ禍においては、非対面チャネルの重要性が高まってもいますが、コンタクトセンターでは最近、どのような取り組みをされているのでしょうか。


松原:
最近の取り組みとして、「一つひとつのコンタクトセンターの“あるべき姿”を見つめ直し、これまで以上にお客様企業にとってのCXを意識してサービスを提供する」ことに力を入れています。

コンタクトセンターでの取り組み 

コンタクトセンターの“あるべき姿”を見つめ直す「MVV」とは?

松原:
コンタクトセンターは、生産性や品質に関する定量的な目標を掲げて日々運営しています。こうした指標を元にした改善活動が重要であることは引き続き変わりないのですが、企業の窓口となるコンタクトセンターで真のCX向上に貢献するためには、もう一歩踏み込んだ取り組みが必要だと考えました。

そんなCXに対する熱い想いをもったコンタクトセンター部門の課長クラスが中心となってスタートしたのが、お客様企業それぞれのコンタクトセンター事業所における「ミッション・ビジョン・バリュー(※以下、MVV)」の策定プロジェクトです。


山田: 
MVVは、もともとは経営学者のピーター・F・ドラッカー氏が提唱したものですよね。

  価値主導のマーケティングへの移行 ミッション・ビジョン・バリューとは? | trans+(トランスプラス) 環境破壊などさまざまな社会的課題に直面している現代では、顧客は企業の社会的責任や社会貢献活動に大きな関心があり、志に共感できる企業の商品を選ぶようになっています。 trans+(トランスプラス)


松原:
はい。そのMVVを「コンタクトセンターの事業所単位で明文化し、実践する」という取り組みで、2年ほど前から活動を続けています。コンタクトセンターの事業所ごとにお客様企業のビジョンやパーパスを理解し、私たちの果たすべき役割を考え、具体的な行動指針に落とし込み、日々の業務で実践しています。

ポイントの一つはお客様企業のビジョンを事業所のビジョンに掲げ、ビジネスパートナーとしてお客様企業の事業に貢献し、共に成長することをコミットしている点です。


コンタクトセンター事業所MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)


松原:
CXでは「パーソナライズ」という考え方がとても重要ですが、MVVの策定によって「それぞれの顧客にとっての適切な対応とは何か」が明らかになり、意識的に行動できるようになります。

コンタクトセンターがCX向上に貢献し、お客様企業の成長を支えるために、お客様企業のご担当者を含めコンタクトセンターに関わるチーム全員で共有する指針としています。


事業所MVVのワークショップ概要


山田:
事業所を立ち上げるタイミングで定義するのは想像しやすいですが、日々の運用業務で浸透させていくことこそ、肝になるようにも思います。


松原:
そうですね。管理者はもちろん、実際に窓口対応をおこなっている現場のコミュニケーターに意識し続けていただくことが重要です。

「CX向上を後押しする役割を担う」ということは、裏を返せば、コミュニケーターの対応次第では顧客の不満を生んでしまう危険性もあるということ。高いレベルの均質なオペレーションが求められますので、「MVVを策定しておしまい」ではなく、コミュニケーターの採用や評価にも組み込んでいます。また朝礼などで日常的に触れたり、階層別教育のプログラムに取り入れたり、メンバー間の対話を重ねることで、「MVVと日々の業務をつなぎ、自ら考え、判断する際に立ち返る」ことができるようにしています。


コロナ禍で進んだ「コンタクトセンターの在宅化」

山田:
コロナ禍で、コンタクトセンターに期待される働き方も変化していますよね。トランスコスモスでは、在宅で顧客対応ができる環境も提供していますが、在宅化を進めてきた実際のところ、現場の様子はいかがでしょうか。



松原:
実はコロナ禍以前からお客様企業へご提案はしていたのですが、コミュニケーターの自宅で顧客との電話対応をすることに対して、セキュリティ環境を整えていても抵抗感を持たれるケースがほとんどでした。正直なところ、以前はなかなか導入に至らなかったサービスです(笑)。

しかし現状では、コロナウイルス感染症対策の観点からトランスコスモスのグループ全体で海外6,000名、国内2,400名が在宅勤務する状態に至っています。


トランスコスモスの国内における在宅稼働変遷


松原:
コンタクトセンターの運営だけでなく企業活動においては「人」が何より大切な資産ですが、従業員の感染リスクを軽減させるという重要な目的の他にも、在宅化は大きなメリットをもたらしました。ES(従業員満足度)と業務パフォーマンスがいずれも向上し、さらには人財の採用活動や退職防止にも効果をもたらすようになってきたのです。

コミュニケーターの通勤が不要になることでプライベートの時間を確保しやすくなるため、優秀な人財を採用しやすくなり、また、プライベートの環境に変化があっても退職に直結しなくて済むようになります。優秀なコミュニケーターが長期に活躍できる環境が整ってきたことで、よりCX向上に取り組みやすくなってきました。

  コロナ禍のトレンドと在宅の今 ~コンタクトセンター運営方針、在宅オペレーション最新情報~ ウェビナーレポート | trans+(トランスプラス) コンタクトセンターでは新型コロナウイルスの対応や、人材確保のために電話チャネルの分散やテレワーク(在宅)活用など、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。本記事では、コンタクトセンターの現状や、デジタル化推進の秘訣などをご紹介します。 trans+(トランスプラス)


目指すは「電話のかかってこないコンタクトセンター」?

松原:
CX向上を大きな目標として様々な取り組みを実施していますが、「顧客がコンタクトセンターに電話をかけないで済む」仕組みづくりにも励んでいます。



松原:
たとえば、電話は企業にとって顧客との大切なコミュニケーションチャネルのひとつですが、顧客のなかには電話をかけるのが苦手な人もいますよね。若年層ではその傾向が特に顕著です。

また、電話をかけたのに混み合っていたり、営業時間外だったりすると不満に直結しますし、つながらないまま切ってしまうと顧客の疑問は解決されないまま不満だけが膨らんでしまいます。これは大きな損失です。

そうした状況を避けるために、そもそも顧客が疑問を持ちにくい状態にしておくこと、そして疑問が浮かんだときに最小限のアクションで解決できるようにしておくことに注力しています。


顧客属性に応じて、問い合わせ時の手間・負担感が変化
(消費者と企業のコミュニケーション実態調査2020 より)


山田:
先回りして顧客の不安や疑問を取り除く環境づくりは、デジタル化を通じてよくご支援させていただくところですね。

たとえば企業のWebサイトをわかりやすくする、WebサイトやLINEのチャットで問い合わせを受け付けられるようにしておく。顧客が自分の好きな方法でスムーズに自己解決できるよう、企業側が準備をしておくことが期待されていると感じます。


松原:
そうですね。そうすることによって、顧客対応全体にかかるコストとしては、むしろ下がるケースも少なくありません。

そして顧客へはエフォートレス(※努力を必要としない)な体験を提供することにつながるので、企業と顧客の双方にとって望ましい状態にすることができます。


手間・負担感が改善されると、顧客ロイヤルティが向上する
(消費者と企業のコミュニケーション実態調査2020 より)

デジタルトランスフォーメーション(DX)の総合的な支援へ

CX向上を支えるデータの活用

松原:
先程「電話が苦手な人もいる」とお話しましたが、お客様企業のコンタクトセンターの中には、チャットやメールなどのチャネルよりも圧倒的に電話でのお問い合わせが多いケースがあります。

その企業ごと、もっといえば商品・サービスごとに顧客が持つ特性は変わりますし、ひと口に「顧客」と言っても、その人が古くからの会員なのか、まだブランドを認知したばかりなのかといった状態の違いによっても、必要とされる情報や対応チャネルは変わります。そうした個別の状況を見極める際に有効なのは、各企業がお持ちのデータの活用です。

一例ですが、「Celonis EMS」というソリューションでは、Webサイトやコンタクトセンターなどで保有している企業内の様々なトランザクションデータをもとに、カスタマージャーニーを可視化することができますので、こちらを活用して現状把握・課題改善を支援させていただいています。

トランスコスモスでは、コンタクトセンターやWeb・SNSなどのデジタル運用サービスを約26,000人規模で提供しています。

たとえばコンタクトセンターのCS(Customer Satisfaction) や NPS ® (Net Promoter Score) を定期的に把握することでお客様企業のCXにおける課題を明らかにし、強化すべきタッチポイントなどの具体的な改善策を現場の運用を踏まえて提案することが可能です。MVVの話とも通じますが、課題抽出や提案をプランニングだけで終わらせず、実際のサービス運用にしっかり落とし込んで、改善に向けて実行することが最も重要です。


山田:
データを活用しつつ、CX向上に向けたご提案をするケースは本当に増えていますね。さらにいえば、たとえば顧客対応に関するデータひとつをとっても、「Webサイトだけ」あるいは「電話の応対履歴だけ」などと、ひとつのチャネルだけのデータを確認するのではなく、複数チャネルのデータを横断的に捉え、活用することが多くなっています。

これはそもそも顧客が、たとえば企業に「何か問い合わせをしたい」と思った際の選択肢にあがるチャネルが増えていることが背景にあります。そしてその多様化は、コロナ禍でさらに加速しています。


消費者と企業のコミュニケーション手段は、デジタル一辺倒でなく多様化
(消費者と企業のコミュニケーション実態調査2020 より)


山田:
顧客一人ひとりの行動に対し、真に最適な体験を実現するのは決して簡単ではありませんが、様々なソリューションを開発し、また有力なプラットフォーマーと連携することで、「特定のWebページを開いて1分経ったら、チャットへ誘導する」「Web広告から流入した顧客にだけ、このWebページを表示させる」など、チャネルをまたぎながら細やかにフォローすることが可能になってきました。

運用チームが日々現場でPDCAを回しながら、大小様々なCX向上事例を少しずつ増やしているところです。


DX推進の鍵は、PM機能の強化

松原:
企業の保有するデータは、当然ながらチャネル選定だけでなく、商品・サービスの開発やマーケティングの改善にも活用されています。特に、コンタクトセンターやSNSに蓄積された顧客の声(VOC)は、企業にとって非常に重要な資産のひとつですね。

たとえばカスタマーケア部門が収集したVOCをもとに、開発部門が商品やサービスの改良を企画したり、マーケティング部門が販売戦略に活かす…というように、部門を横断して取り組まれたことによる成功事例も出てきています。


山田:
はい。一方で、これから組織を横断したデータ活用に注力しようと、各部門からメンバーが集った“特命プロジェクト”の方から、データの収集方法や将来あるべき姿についてご相談いただくことも少なくありません。

「データを活用しよう」、さらには「DXを推進すべきだ」という方針は定まりつつも、そもそも部門ごとに目標が異なっていて、保有データの形式が異なっていることは当然ありますよね。

また、部門内でDXの実現を目指そうとしても、デジタルの知見がないと進みません。そうしたお客様企業の取り組みに、ビジネスの理解とデジタル知見とを兼ね備えた、PM(プロジェクトマネージャー)の役割としてご支援させていただける体制を、私たちはさらに強化していきたいと考えています。


松原:
そうですね。まだまだお客様企業内でも組織間の連携体制が整っていないところが多いのが実情です。私たちはコンタクトセンターとWeb・SNS・広告といったデジタル領域のオペレーションをワンストップで提供できる強みを活かし、お客様企業内の組織を横断的にサポートし、顧客視点で最適なサービス体験を支援する真のパートナーを目指したいと思います。


山田:
はい。すでにトランスコスモス社内では、エリアやサービス種別といった各自の担当領域を飛び越えてお客様企業に伴走するチーム体制へ、組織体制を一部見直していますが、今後は、さらに中長期的な視点から「お客様企業と顧客の両者にとって最良なサービス像」を描きつつ、お客様企業のDXを力強く支援していきたいですね。

  デジタルトランスフォーメーションを総合的に支援するサービスの提供を強化 お客様企業の要望・課題に沿ったDXを提案し、最適なソリューション・プラットフォームを組み合わせた運用を提供 https://www.trans-cosmos.co.jp/company/news/210604_0002.html


今回の対談はオンラインで実施しました


※NPS ®はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。


阿部 智英美
阿部 智英美
トランスコスモス社員。Webディレクター、営業支援・提案担当を経て、現在はトランスコスモス応援隊。勤務中のモットーは「できるだけ楽しく、あとで美味しいお酒が飲めるように」。

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