【日用品編】オピニオンリーダーが語る、リテール業界に求められる「今」と「未来」

withコロナの生活が長期化し、人々のライフスタイルはコロナ禍以前や緊急事態宣言下とも異なる、全く新しいものへの変化の最中にあります。消費行動の変化に伴うニーズに応えるために、リテール業界はこれから何を、どのように備えるべきなのでしょうか?

トランスコスモスではこのような課題感を見据え、様々な業界の第一人者をお招きしリテール業界における「コロナ危機下の経営手法」や「今注目すべきソリューション」について議論するオンラインイベントを全3回に渡って開催しています。

本記事はその第二回、8/28(金)に開催した『ホームセンター、ドラッグストア、スーパーマーケット領域のwith コロナ時代の進化と生き残り方』についてのダイジェスト版イベントレポートとなります。


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第3回:化粧品編



●パネリスト

店舗のICT活用研究所 代表 郡司 昇氏

嘉穂無線ホールディングス 代表取締役社長 柳瀬 隆志 氏

サツドラホールディングス 代表取締役社長 富山 浩樹 氏

ヤオコー 取締役情報システム部長兼インフラ管掌 戸川 晋一 氏


●モデレーター

トランスコスモス 常務執行役員 柏木 又浩


※以下、敬称略


※2024年6月27日更新

目次[非表示]

  1. withコロナで各業界の店舗ビジネスに起こった変化
    1. 1. 全体概要―ステイホーム需要を捉えた業態や商材が好調
    2. 2. グッデイ (ホームセンター)―全体的に売上好調。コロナ対策・DX施策は顧客体験を高めるために推進
    3. 3. サツドラ (ドラッグストア)―社内外との協業×新規事業でDX化を総合的に推進
    4. 4. ヤオコー (スーパーマーケット)―ECと実店舗の二軸を展開。折り込みチラシで実店舗の「安全性」をアピール
  2. 今後、各業界で勝ち抜くためにすべきこと
    1. 1. コロナ禍を経て実施した取り組み―あらたな顧客接点はオンラインで創出する
    2. 2. コロナ禍を経て変化した“販促”―「チラシ活用」の強弱と「エコバッグ」による販促強化
    3. 3. 決済の未来―「クリック&コレクト」に潜在的ニーズあり
    4. 4. DX推進の課題・キーワード―お客様のニーズに立脚した戦略立案を

withコロナで各業界の店舗ビジネスに起こった変化

1. 全体概要―ステイホーム需要を捉えた業態や商材が好調

コロナ禍を経て変化した店舗ビジネスについて、各社どのような取り組みを行ったのかお聞かせください。


はい、ではまず私からは業界全体の概要をお話します。

コンビニは5月まで売上は前年比2割減でしたが、6月に入り回復傾向がみられました。一人あたりの来店数が減り、客単価が高まった事が特徴です。来店回数を減らしてまとめ買いする事が影響していると思われます。

スーパーについては、客数減/単価増とコンビニ同様の傾向です。客単価は昨対1%増、売上は昨対5%伸長ですね。


各業界の既存売上高(ブルー)・既存店客数(オレンジ)・既存店客単価(グレー) 2020年6月度データ


ドラッグストアは、客数が増加傾向です。中でも食品の扱いを行っていたり、地域密着型の企業は業績が良かったです。一方、化粧品などインバウンドを主軸に売り上げる業態であったり、都心型の企業はダメージが大きかったようです。

ホームセンターについては全体的に順調で、特に客数が伸びていますね。詳しくはこのあとグッデイの柳瀬さんにお話しいただきます。

その他のチェーン店で言いますと、「ニトリ」が絶好調ですね。

5月までは110店舗が休業していましたが、6月に入って一部が営業再開したため140%以上の売上伸長となりました。自転車ショップの「あさひ」も好調で、ニトリ同様、6月に一部店舗が営業再開したことや、電車通勤を避けるため自転車を選ぶ人が増えたことから成績好調です。


なるほど、ありがとうございます。withコロナによる「新しい生活様式」の長期化に伴って、人々の消費行動も変わってきている、ということですね。


2. グッデイ (ホームセンター)―全体的に売上好調。コロナ対策・DX施策は顧客体験を高めるために推進

続いて各社、コロナ対策とDX施策について、どのような取り組みを行ったのかお聞かせください。まずはホームセンター「グッデイ」の柳瀬さん、お願いします。


はい。グッデイでは、緊急事態宣言後のコロナ対策の一つとして店舗に飛沫防止パネルを設置しました。これはもともと店舗で取り扱っていたアクリル板に穴を開け、POPスタンドにぶら下げて作成しました。

また、フェイスシールドも自社で制作し、着用しています。ちなみにこのフェイスシールドは医療機関等にも4000個以上納入しました。

こうした対策情報や、「ソーシャルディスタンスのお願い」「こちらでお待ち下さい」といったPOPの画像データ・飛沫防止パネルの使い方などの情報は弊社の安全施策としてホームページにすべて公開するようにしました。



コロナ禍による影響ですが、10月の増税で売上が落ち、ポイント還元などで売上を戻しつつも、2月以降は急上昇。緊急事態宣言後の4月以降は20-30%の売上増となりました。

商品単位での売上傾向としては、コロナ禍が本格的に報道され始めた第9週目に日用品が爆発的に売れ、ゴールデンウィークあたりからステイホーム需要、つまり家で過ごすためのグッズの売れゆきが良かったです。ゴールデンウィーク以降は全体的にどの商品もプラス傾向にあり、中でも食品その他は需要が落ちていません。

決済手段には大きく影響があり、キャッシュレス利用率が30%台まで向上、緊急事態宣言後も30%台を維持し続けており、これは5-6%程度の売上アップに貢献しています。


サツドラホールディングス子会社の「GRIT WORKS」社のPOSソフトを全店舗に展開中


DX施策についてですが、小売業はPOS・お客様の行動・天気など様々なデータが集まります。これらのデータを、今までだと人間が「経験と勘」で処理していましたが、データベースに情報を蓄積・分析し、必要に応じてAIを活用しました。課題を顕在化させ、お客様のサービス改善につなげて体験価値を高めていく、という考えがグッデイのDX施策の根幹にあります。

その施策の一例として、ほとんどすべてのキャッシュレス決済手段を導入したり、サツドラ子会社「GRIT WORKS」が提供しているPOSシステムを新たに全社展開したり、LINE友だちの獲得に注力したりなどしました。LINEではクーポン配布やキャンペーンを行い、その結果約20万人の友だちを獲得することに成功しましたね。


3. サツドラ (ドラッグストア)―社内外との協業×新規事業でDX化を総合的に推進

では続いて、ドラッグストア「サツドラ」の富山さん、お願いいたします。


はい、まずコロナ対策をご紹介します。ドラッグストア業界は、マスク・トイレットペーパー騒動などで従業員が疲弊していく中、企業としては素早い対策が求められていました。

そこでサツドラ社内では意思決定スピードを加速させるため、社内SNSを活用し素早くコミュニケーションを行ったり、社内ポータルサイトやYouTubeを活用しミーティングをリモートで行うようにしました。

そうすることで、店舗の混雑具合を可視化し“密”を避け、マスク着用・体温を自動で検知するシステム「AWL Lite(アウルライト)」の開発にいち早く注力することができ、サツドラの実店舗で実証実験しリリースしました。これはメディアにも取り上げていただき、様々な企業で導入いただきましたね。


AI体温検知ソリューションや、消毒推奨+混雑度予測ソリューションは週刊東洋経済(2020.8.22号)の「すごいベンチャー100」でも紹介された


AWLは資本業務提携先のAIソリューション企業でもあるのですが、サツドラではグループ体制を活かしたDX推進をしていて、デジタル戦略立案をもとにしたグループ全体のDX基盤の創出を目指し、サツドラの実店舗を実証実験の場としてAWLに提供して共同開発を行っています。

その取り組みの一例として、 AWL・サイバーエージェント・サツドラで業務提携をしました。実店舗におけるお客様の導線を可視化すべく、ある商品が売れた時お客様はその売り場を通ったか・立ち止まったのか・時間帯はどうなのか、といった事をAIカメラやデジタルサイネージを活用し解析しています。

ドラッグストア業界にとって、コロナ禍は化粧品やインバウンドなどダメージを受けた部分も多かったのですが、飛躍できる種を植える時期でもあったと思っています。



サツドラさんはリテールのDX化を総合的に推進していて、素晴らしいですね。


4. ヤオコー (スーパーマーケット)―ECと実店舗の二軸を展開。折り込みチラシで実店舗の「安全性」をアピール

では続いて、スーパー「ヤオコー」の戸川さん、お願いします。


はい、まずコロナ禍による売上への影響ですが、スーパーマーケット業界全体で2月くらいから売上が伸びました。

コロナ禍で「巣ごもり消費」など新たな消費行動が生まれましたが、売れ筋商品は変わってきています。当初はマスクやパスタなどの消費財が売れていましたが、最近だと家庭で食事を楽しむもの、例えばお酒や本マグロや牛肉といった少し豪華な食材が選ばれるようになりました。おそらく外食することに未だ抵抗があり、家での食事をいかに楽しいものにできるのかが求められていると考えられます。

さらに、近場のスーパーへのニーズは以前だと、競争力のある店舗が近くにあるとそちらに流れてしまっていたのですが、コロナ後は近隣のお客様がよく来るようなりました。また、「景気がますます悪くなっていくのではないか」といった生活防衛、危機管理の意識がお客様の中で高まっている印象もあります。



続いてコロナ対策ですが、まず店舗での取り組みは、レジに透明フィルムを設置したり、ソーシャルディスタンスの表示をするなど他店でも実施しているような基本の取り組みを実施しました。

また、安全性を高めるための取り組みを実施している事をお客様に伝えるのが大事だと考え、「安全のための取り組み」として情報をまとめ、折り込みチラシを入れました。



お客様の生活防衛への意識の高まりに応えるため、カテゴリーで割引する販促の設定期間も変えましたね。ヤオコーでは「コーヒー・紅茶等」「シャンプー・リンス等」などカテゴリごとに割引を行うのですが、お客様の来店を分散するため、割引期間の範囲を旧来の“1-2日”から週単位に広げました。

続いてDX施策ですが、ヤオコーでは元々ネットスーパーやオンラインギフトをサービス提供していました。しかしコロナ禍で需要が跳ね上がり、特にネットスーパーは商品の安定供給を第一にどうすべきか、現在模索している最中です。

また、スマホアプリは割引が受けられるためヘビーユーザーが増えましたので、デジタル接点の創出に貢献しています。


今後、各業界で勝ち抜くためにすべきこと

1. コロナ禍を経て実施した取り組み―あらたな顧客接点はオンラインで創出する

ではここからディスカッション形式でみなさんのお話を聞いていきたいと思います。

今後、コロナに配慮した生活がしばらく続いていくことは確実かと思いますが、この状況下で勝ち抜いていくにはどうしたらいいと思いますか。


グッデイでは顧客向けワークショップをリアルの場で開催できなくなったので、会社の一室をスタジオ化しYouTubeで動画配信するなど、オンラインに顧客接点を設けたりしていますね。

また、今年は“デジタル販促元年”と社内で定め、オンラインを活用したさまざまな情報発信・更新方法を模索しています。


サツドラも同じく、特に化粧品のカウンセリング(タッチアップ)ができなくなったので、オンライン化できる所はオンライン化しようとしています。とはいえ現時点ではお客様も対面での接客をそこまで求めていませんので、その代わり店舗に設置している表示物の伝わりやすさを向上させるための努力をしています。


対面の接客を強く求められていないという点ではヤオコーも同様ですので、POS周りをどうするか検討しています。お客様の気持ちに寄り添って、何が必要とされているかの見極めは必要ですね。


店頭でのコミュニケーションが取りづらくなっているので、店内の掲示物などの工夫をするのはもちろん、ワークショップをオンラインで開催するなど、オンラインなど他の手段でコミュニケーションを取る方向に変わってきていますよね。

デジタルを活用したコミュニケーションの方法論を確立していくのは、これからのキーになってくるでしょうね。


2. コロナ禍を経て変化した“販促”―「チラシ活用」の強弱と「エコバッグ」による販促強化

コロナ禍を経て販促方法に何か変化はありましたか? 


ヤオコーは、お客様の密集を避けるため毎月カテゴリーで割引するセール期間を数日から週単位にしたものも投入し、また、店舗情報の告知のため折り込みチラシを活用していますが、エリアごとに効果が異なるのでその微調整をしています。

また、7月1日よりレジ袋が有料化したので、販促でエコバッグを配布したら大きな反応がありました。


サツドラでも“50代以上”に向けた内容の折り込みチラシを出すなど折り込みチラシとデジタルチラシをセグメントに応じて内容を変えて出すようになりました。

また、レジ袋有料化を機に当社オリジナルのエコバッグの取り扱いを増やしました。レジ袋は本来、そのお店を象徴するものだと思うので、エコバッグにおいてもそのお店を想起させるものがいいかなと考え、北海道をイメージさせたり、イラストレーターとコラボしたりしておしゃれでたくさんの種類を揃えました。結果、SNSで非常にシェアして頂きましたので、レジ袋もブランディング施策のひとつとして使えるなと思いましたね(笑)。


グッデイでは、最近の新聞購読層の減少が起因してか、新聞折り込みチラシの効果が小さくなってきました。社内調べではありますが新聞購読者数は4000万人を切っていて、今後も増えないと思っています。

一方、冒頭にお話したクーポン配布やキャンペーン実施によって公式LINEアカウントの友だち数は20万人を超えました。年齢層も幅広く、LINEの接点の広さに可能性を感じています。ですので今後も、「LINEミニアプリ」などを活用しながらデジタルでの販促を強めていくつもりです。


コンビニではおにぎりのパッケージなど小さいゴミが出るし、手元にエコバッグがない場合があるのでセイコーマートさんなどは有料化しなかったそうですね。

また、「レジ袋の代わりに紙袋を導入してはどうか」という意見も聞きますが、紙袋はレジ袋の3-5倍高く採算が合わず現実的ではないですよね。いずれにせよ、みなさんの店舗ではそもそもエコバッグ利用者が多かったので、比較的スムーズに開始できたという事ですね。


3. 決済の未来―「クリック&コレクト」に潜在的ニーズあり

ネットで注文し、店舗で受け取る「クリック&コレクト」方式、例えば「BOPIS (※)」が最近注目されていますが、みなさんどのようにお考えでしょうか?

※ BOPIS:Buy Online Pickup in Storeの略。オンラインで購入して店頭で受け取るサービスまたはショッピング形式のこと



ヤオコーはリアル・ネットでの購買を同じような体験感にするのが理想ですので、その一環としてネットスーパーを進めています。

しかしスーパーの商材は単価が低く、値上げしにくいので、配送コストの採算が合わず「配送コストをどのようにまかなうか」が課題です。その意味だと配送コストが回収しにくいネットスーパーよりは、「クリック&コレクト」はコスト構造上の利点が大きく、これからの可能性があるサービスであると考えています。


グッデイでも「クリック&コレクト」方式の導入を検討しています。

そもそも、ホームセンターはコア商品である苗や土、木材などネットで売れないものが多いので、店舗で引き取るほうが理にかなっている面はあります。ただ、店舗でいかにピッキングを行うかが課題ですので、音声入力によるアシストなど、商品の所在を効率的に把握するためのシステム開発を進めています。


サツドラも「クリック&コレクト」の推進をしていきたいのですが、正直ハードルは高いです。一方、店舗を「PUDOステーション (※)」の拠点として提供している身からすると、その稼働率が非常に高いため「クリック&コレクト」の需要の高さはひしひしと感じています。好きなタイミングで取りに行く事自体に潜在的なニーズがあるんでしょうね。

※ PUDOステーション:Packcity Japan(パックシティジャパン)が運営する、オープン型宅配便ロッカー。【参考


4. DX推進の課題・キーワード―お客様のニーズに立脚した戦略立案を

では最後に、皆さんの業界におけるDX推進の課題・キーワードを教えてください。


データの活用機会はまだまだ残っていると思っているので、社内に開発部隊を持って、店舗のシステム化を推進していきたいですね。

ただ、DX推進をするための人材育成など課題はあります。ホームセンター業界の業績は好調ですが、どこかで揺り戻しはあると思うので、好調な今のうち、特にIT分野は投資を強めながら事業運営基盤を強化していきたいです。


私は、例えば“Amazon ID” を持っていればAmazonを優先的に使うように、「買い方」や「販売方法」が劇的に変わりうる時代だと考えています。

サツドラでは、何を基準にお客様が購買行動をとるのかを可視化し、次のチャンスに繋げていくDX推進を続けていきます。


ヤオコーでは、業務改革・オペレーション効率を上げるためのシステム投資を優先しますが、並行してお客様向き合いの部分でのDX推進を、実証実験を行いながら進めます。一方、チラシに関してはまだまだ効果があるので、リアルとデジタルは使い分けていくつもりです。


みなさんありがとうございます。

本日の話をお聞きして、みなさんお客様をきちんと見た上でDX化の戦略を立て、同時に「DX推進をする」という意思が明確に感じられ、経営陣の意思として腹をくくる事が推進をする上で何よりも肝心なのだと思いました。本日は貴重なお話をありがとうございました。


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漣香代子
漣香代子
トランスコスモスのデジタルエージェンシー事業の広報担当。広報業務のかたわら、毎日業界ニュースを取りまとめて社内へ情報発信している。 プロレスが好きすぎて蛍光灯を見るとデスマッチの武器にしか見えずギラギラしてしまうのが長年の悩み。

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