次世代コンタクトセンターの世界~第3章:チャットサポートを成功へ導くための運用方法

次世代コンタクトセンターの世界~第3章:チャットサポートを成功へ導くための運用方法

横尾 大祐

 

DEC統括
デジタルコミュニケーションセンター総括
チャット・FAQ 構築支援課

対話型AIシステムが普及、2022年までに5倍以上の市場規模へ

近年、コンタクトセンターが迎える「超」人材不足時代において、労働力不足を補うべく、テキストおよび音声をインターフェースとした対話型AIシステムのツール環境整備が加速しており、チャットサポートを活用するコンタクトセンターが急増しています。

コンタクトセンターのノンボイス化は2016年ごろから急速に進んでおり、「コールセンター白書2018(リックテレコム)」によると、2017年と比べると2018年時点でチャットに対応したコンタクトセンターは約1.6倍、LINEなどのメッセージングアプリは3.8倍にまで拡大しています。

さらに2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックが追い風となり、接客を目的とした対話型AIシステムの利用が拡大を続け、市場規模は2018年と比べ2022年までに5.5倍になるという統計もあります。

とはいえ、他の統計では日本におけるチャットサポートの使用状況は6%程度に過ぎません。これは他国と比べても圧倒的に低い状況です。しかし、海外ではすでにチャットは顧客にとって必須のサポートチャネルとなっています。

このように日本でだけ普及が低い市場の類似例としてキャッシュレス決済市場があります。キャッシュレスは便利ですが現金でも支障がありません。同様にチャットは便利ですが電話・メールでも大きな支障はありません。その結果、どちらも普及が遅れがちという共通点があります。

しかし、AppleのBusiness Chat Suggest(Business Chatをサポートしている企業の電話番号をタップすると、チャットを開始するための提案をしてくれる機能)や、Google のマイビジネスアプリにおけるビジネスリスティング(ビジネスリスティングを見つけたユーザーからのメッセージに返信できる機能)などが起爆剤となれば、消費者にチャットの利便性がより広く認知され、ノンボイス化が急速に広まる可能性があるでしょう。

こうしたノンボイス化のトレンドは、労働力不足という企業側の都合だけで起きている現象ではありません

図1のように、トランスコスモスの独自調査である「消費者と企業のコミュニケーション実態調査」を見ても、「電話」「Webサイト」「店舗・店頭」などがいわば”王道チャネル”として使われている一方で、「チャット」や「メッセージングアプリ」は俗に“キャズム”と呼ばれる普及の溝を超えて、利用経験者が2割近くまで急増しており、消費者と企業のコミュニケーション手段として浸透してきています。

図1:「チャット」や「メッセージングアプリ」は普及の“キャズム”を越えた

このように、問い合わせをしてくる消費者側のニーズからみても、チャットやLINEのようなノンボイスサポートに対する期待が見て取れるのです。

なぜチャットの導入でつまずくのか

では、コンタクトセンターにおけるチャット導入は、どのように進めればよいのでしょうか。

トランスコスモスは、チャット導入の基本ステップを、(1)プロジェクト設計、(2)データ収集・分析、(3)導入準備、(4)テスト運用の4フェーズで整理しています。

そして(1)~(4)の各フェーズで、以下のような “つまずきポイント”が存在します。

(1)のプロジェクト設計段階で非常によくあるつまずきが、対話型AIシステムの導入そのものが目的になってしまい、プロジェクト設計がいい加減になってしまうという問題です。

これはトップダウンで話が進んだ時に起こりがちな失敗で、同業他社が導入したため目的が具体化されないままとりあえず導入したり、AIやチャットが話題になっているからといって、期待値が高すぎて壮大な計画(夢)を立ててしまったりといったケースが散見されます。

逆に、トップや他部門からの理解が得られず、チャットにかけられる予算が限られているため、まずは安価なツールから導入して実際の業務になじまずに終わったり、チャネル全体ではなくチャット単体で設計してしまいチャットへのユーザー導線が確保されなかったりというケースも少なくありません。チャットを導入するうえで最重要視する目的を設定し、その目的や施策の内容にあったチャットツールを選定する必要があります。

次に、そもそも(2)の事前のデータ収集・分析の重要性を認識しないまま、チャット導入を進めてしまい、後々になってつまずくという失敗例もよく見かけます。

チャット導入予定のカスタマーサポート窓口の業務がそもそもチャットと親和性があるのかを分析していなかったり、チャット導入の前提となる社外および社内双方のナレッジ(FAQ)が最適化されていなかったり、各チャネルの流入経路や公式サイトへのアクセス状況を把握していないまま導入したりといったケースが絶えないのは、事前のデータ収集・分析というステップを軽視して、とりあえずツール導入に走ってしまったからにほかなりません。

さらに、公式サイトなどからチャットへの流入経路に支障があったり、誤ったシナリオ設計により質問がループしてしまったりといった現象により、ユーザーが問題解決までたどり着かないといった失敗例も見られます。例えば、公式サイト上のチャットへのリンクが目立たない場所にあったり、Botに必要なスクリプトしか登録しておらず、遊びや雑談がないため途中離脱するユーザーが多いといった問題です。こうしたケースはある程度、チャット導入後のPDCAサイクルの中で改善していけばよいものもあります。

しかし、問題は、そもそも改善対象を発見するためのKPIを設定をしていなかったり、それらの目標数値や算出方法が曖昧であったりすることで、PDCAサイクルが機能しないというケースが多く見られます。そのため、(3)のチャット導入前の準備段階で、明確なKPIの設定を行うことが必要です。

最後に、(4)のテスト運用でのつまずき例としては、「Botで回答すべき問い合わせ」と「有人で対応すべき問い合わせ」の棲み分けができておらず、運用を開始しても、ユーザーにチャットをなかなか使ってもらえなかったり、解決率がいっこうに上がらず、むしろCXが下がってしまうというケースが見られます。こうした問題は、テスト運用をしっかり行ったうえでBotのメンテナンスを施してから本運用に移行することで回避できることが多いはずです。

しかし、ツールの分析機能が弱かったり、そもそもの流入数が少ないのに解決率・同時対応数などのKPIを追ってしまうというケースも見られます。テスト運用の結果次第では、前のフェーズで選定したツールや、設定したKPIを見直す必要が出てくる場合もあるでしょう。

チャット導入におけるフェーズ別の成功の秘訣

では、これらの“つまずきポイント”を回避するために各フェーズで実施しておくべき「成功の秘訣」とは何でしょうか。フェーズごとに詳しくご説明しましょう。

(1) プロジェクト設計フェーズの成功の秘訣

プロジェクト設計フェーズでは、チャットを導入する目的を設定することが重要です。コスト削減をしたいのか、CXを向上したいのか、コンバージョン率(CVR)を改善したいのか、最重要視する目的を定めて、そのうえで施策の中身を明確化し、目的や施策にあったチャットツールを選定する必要があります。

① コンタクトセンターの「コスト削減」が目的の場合
Botによる自動応答による人件費の削減、そして有人であっても1:nの同時対応や画像共有による応対時間短縮などの効率化によって、コンタクトセンターにかかる総コストを削減するという施策が現実的です。そのような目的に適したチャットツールとして、トランスコスモスの「DEC Support」「チャットプラス」などがあります。

② 顧客接点の拡大による「CX向上」が目的の場合
商品・サービスの差別化を徹底するためにWeb上でのカスタマーケア/アフターサポートによりブランド強化を図るといった施策が考えられます。プレイド社の「KARTE」などのWeb接客ツールは、そうした目的に適した機能を有しています。

③ 購買支援・意欲向上による「CVR改善」が目的の場合
チャットを通した接客により、リアルタイムな回答と購入支援のスムーズな流れを実現するといった施策が考えられます。チャットコンシェル「ShowTalk」は、そのようなサービスを実現するための代表的な手段です。

ちなみに、チャット導入の目的は以上の3つが代表例ですが、他にもES向上・離職率低下や採用コストの削減、VOCデータの分析・活用、潜在顧客へのアプローチといった副次的な効果もあるので、是非、参考にしてみてください。

また、プロジェクト設計フェーズで、もうひとつ重要なことがあります。それはチャット単体のことだけを考えるのではなく、コンタクトチャネル全体の中でチャットが果たす役割や位置づけを意識するということです。

図2のように、電話やメールなどの他のチャネルや、同じチャットでもWeb ChatやLINEなどのメッセージングアプリのチャット機能では細かな機能やメリット、デメリットが異なります。

図2:カスタマーサポートチャネルの比較

自社の業界やサービスの特徴に合わせて、「時間や場所を問わない」のように重視したいメリットや、「解決するまでブラウザを閉じられない」のような許容できないデメリットを考慮し、複数の手段を組み合わせて相互に補完しあうといったチャネルミックスを考える必要があるでしょう。

(2) データ収集・分析設計フェーズの成功の秘訣

データ収集・分析設計フェーズでは、自社の問い合わせ対応業務がそもそもチャットと親和性があるかどうかをチェックし、社外・社内双方のナレッジ(FAQ)の最適化を図ります。

具体的には、既存のコンタクトセンターへの問い合わせ内容が一律同じような回答が可能な状態なのか、それとも個別対応や人間による判断が必要不可欠なのかを分析します。

その結果、全問い合わせのうち電話対応領域が○%、場合によってはチャット対応化できそうな領域が○%、現状でもチャット対応が十分可能な領域が○%、そのうち自動応答可能なのが○%と分解していき、事前にチャット導入後の各チャネルのフォーキャストとコストを試算します。

図3:コンテンツカバー率分析によるナレッジ(FAQ)の最適化

また、すべてのチャネルにおける顧客応対の基礎となるナレッジ(FAQ)が陳腐化していないかどうかの分析も行います。図3のように、全問い合わせのうちFAQでカバーできている割合(コンテンツカバー率)を測定し、外部向けサポートページに掲載するFAQのカバー率をできれば70%、内部向けサポートナレッジのカバー率をできれば90%近くまで高めます。

このようなナレッジの最適化を怠ると、有人チャットを導入しても応対時間がいたずらに延びたり、Botの未解決案件が増加したりといった課題が発生してしまいます。

(3) 導入準備フェーズの成功の秘訣

導入準備フェーズでは、各チャネルの流入経路を最適化するための導線設計とKPIの設定を行います。

チャットを設置しただけでは流入数に限りがあり、肝心の利用率が上がらないということが少なくありません。そこで、図4のように電話やWebらチャットに誘導する流入経路を確保する必要があります。

残念ながら、Webサイトはコールセンターの管轄外で思うようにユーザー導線を改善できないという企業や、そもそもサイトトップからサポートコンテンツへの導線分析すらしておらず、現状を把握できていないという企業も少なくありません。

しかし、チャット導入にあたっては、Webからのスムーズな導線確保は必要不可欠な要素ですので、チャネルや組織の垣根を越えた取り組みを徹底することが求められます。実際、ある家電メーカーの事例では、サポートページのトップ画面に「V-IVR」(スマホ画面上で視覚的に有人チャットやBotに誘導する仕組み)を導入し、流入量を327% アップさせることに成功しています。

図4:流入経路の設計とV-IVRによるチャットへの誘導イメージ

また、導入準備フェーズでは、運用管理のためのKPIの設定やレポート項目の検討を行い、応対者のキャラクター(ペルソナ)やトーン&マナーを設定したうえで、業務フローの作成や採用・研修といった運用体制の構築を行う必要があります。こうした準備作業はコールやメールなどのコンタクトセンター業務と似通っている部分も多いですが、BotサポートのKPIについては、Bot固有の特徴的な指標がいくつかあります。

例えば、Bot候補表示率です。これはBot利用者に対して、回答候補が返答できているかという指標です。この数値が低い場合、Q&Aの登録が少ないために回答候補を顧客へ提示できず、最終的な解決率が低くなっていることを意味するので、Q&Aのナレッジ拡充が必要になります。

もうひとつ、Q&Aヒット率もBot固有の指標です。顧客の質問に合致したQ&Aを返答できているかというものです。この数値が低い場合、正しくない回答候補を提示してしまっている可能性があり、最終的な解決率が低くなっていることを意味するため、回答候補表示ロジックの見直しが必要になります。

(4) テスト運用フェーズの成功の秘訣

最後のテスト運用フェーズでは、トライアルの中で図5のように「Botで回答可能な問い合わせ」と「有人で対応すべき問い合わせ」を明確化していき、本運用に向けたBotのメンテナンスを行います。

ここでは問い合わせ全体のうち、Botで解決できた問い合わせが2~4割程度の数値を出せているか、そして未解決となった問い合わせにおいてユーザーアンケートの回答で明示的に「解決できなかった」と判定されたもの以外を分析し、メンテナンスを行うことが重要になります。

図5:「Botで回答可能な問い合わせ」と「有人で対応すべき問い合わせ」の明確化

Botの解決率の算出方法は、Bot利用数、アンケート回答数、FAQや修理誘導を含めた数など、分母の取り方によっていくつかのパターンに分かれます。アンケート回答なしの解決数も見込み解決としてアンケート回答率をもとに算出しているケースもあります。これらはBot導入の目的によって適切な解決率の母数を設定することが望まれます。

トランスコスモスでは、算出方法別のBotの解決率やフィードバック率といった各種KPIごとに他社事例やベンチマークとなる平均値などを計測しているので、Bot導入の際はご相談ください。

“コール窓口をなくす”ぐらいの「熱意」が必要

ここまで、チャット導入のフェーズ別の“つまずきポイント”と「成功の秘訣」をご紹介してきました。

繰り返しになりますが、コンタクトチャネル全体の構成を踏まえて、チャット導入の目的や果たすべき役割を明確化することが重要です。そのうえで、問い合わせ内容がチャットへの親和性があるか、ナレッジとなるFAQが整備されているかを事前に分析し、チャット窓口への流入経路の確保やBot解決率向上に向けたメンテナンスをしっかり行うという段取りを踏んでいくことが“成功への道すじ”となります。

最後に、チャットの導入や推進を担当している企業の皆さまへのメッセージをお伝えします。

実は、いざチャットを導入すると顧客接点の拡大により新たなユーザー層からの問い合わせが発生し、コンタクトセンター全体でみると問い合わせが増加してしまうケースがほとんどです。すると、たとえば「コスト削減」を目的にチャットを導入した企業にとっては、その現象は本末転倒であると感じてしまい、チャットの推進を途中であきらめてしまうというケースも起こりがちです。

しかし、これは視点を変えると、サイレントカスタマーのニーズや不満に応え、CXの向上やブランド強化に確実に貢献している証にほかなりません。そして、チャットサポートやBotの改善と強化をしっかりと繰り返していけば、コストパフォーマンスの良いカスタマーサポートの実現につながります。

したがって、私からはチャット導入を推進する人の「熱意」が一番大事であるということを、最後に強調させていただきたいと思います。

極端な言い方かもしれませんが、結局はチャットサポートの持つ価値と力を信じて、 “コール窓口をなくす”ぐらいの「熱意」がないと、ノンボイス化の推進という取り組みは継続していけないのではないでしょうか。そのような熱意を持った皆さまに、弊社の取り組みが少しでもお役に立てば幸いです。

 

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