コンタクトセンターのDX化成功のカギはチャット活用にあり! デジタルチャネル流入増加の秘訣
コンタクトセンター(コールセンター)における電話窓口はチャネル全体の60%以上を占めており、多くの企業が顧客のニーズに合わせたチャットなどのノンボイスサービスの導入や、FAQなどのサポートコンテンツによる顧客の自己解決を促す取り組みを進めています。
しかし一方で、 “チャットを導入したのに入電数が減らない” “FAQサイトに掲載されているものと同様の問い合わせが入る” といった課題に悩まされるケースも少なくありません。
そこで本記事では、デジタルチャネルへの流入を増やすためにおさえるべきポイントや、コンタクトセンターにおける業務効率の最適化を進めるための最善策をお伝えします。
目次[非表示]
なぜ効率化がうまくいかない? 課題を正しく理解するために必要なこと
CX事業統括 DX推進本部 副本部長
岩浅 佑一
現在、デジタルチャネルの重要性は増しており、コンタクトセンター運用におけるトレンドとしても増加傾向にあります。
こうした動きは国内外で今後さらに加速すると考えられており、海外企業は2年後には電話窓口がチャネル比率全体の50%を下回ると言われています。
一方、デジタルチャネルへのシフトにいまだ多くの課題を抱える企業は多く、切り替えに成功したと答える日本の企業は全体の2割に満たないという結果も出ています。
出典:2021 グローバルコンタクトセンターサーベイ | デロイト トーマツ コンサルティング
このことから、電話以外のチャネルを顧客に認知してもらうなど、デジタルチャネルへのシフトを成功へ導くための積極的な取り組みが必要とされている現状が読み取れます。
そのためには、チャットによるカバー範囲の拡大や、ボットとのシームレスな連携を用いた流入課題の解消が重要です。
トランスコスモスが実施している『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2022-2023』では、消費者のおよそ9割が問題解決のためにまずWeb検索を行うと答えており、電話窓口への問い合わせに負担を感じると答える消費者の割合も年々増加しています。
そのため、企業はチャットボットやサポートコンテンツなど自己解決を促すための取り組みを講じる必要がありますが、ノンボイス対応の課題として多く挙げられるのが、“チャネル毎でシステムが分断されるなど、応対関連システムの準備ができていない” “個人情報保護の観点やセキュリティポリシーによって活用シーンが限られてしまう” “消費者のニーズが分からず、導入したはいいが使われていない” といったものです。
<参考>消費者と企業の目線で考えるコンタクトセンター最適化の秘訣
こうした課題を解消するために、トランスコスモスがお客様企業とともに取り組みを進めるなかで見えてきたポイントを具体的にお伝えします。
デジタルチャネルの現状と企業が直面する課題
CX事業統括 DX推進本部 DXソリューション統括部
コミュニケーションアーキテクト部1課 課長
伊良皆 高
CX事業統括 DX推進本部 DXソリューション統括部
統合運用CT部2課 課長
丸田 容子
ここからはデジタルチャネルへの流入を増やすための最善策をお伝えします。
まずはデジタルチャネルの現状についてです。
『消費者と企業のコミュニケーション実態調査2022-2023』によると、いまや日本国内におけるスマートフォンの普及率は95%となっており、メッセージアプリやチャットの利用率は70%を超え、SNSについても47%とおよそ2人に1人が利用しています。
さらに年代別のチャネル利用意向率を見てみると、66歳以上のいわゆる高齢層と呼ばれる顧客についてもメッセージアプリやチャットが50%と、電話と同等であることが分かっており、これまで言われていた “ユーザー(顧客)層が高齢の場合、電話利用がメインでチャットなどデジタルチャネルの利用率は低い” という考えは通用しなくなってきています。
しかし、メッセージアプリやチャットを利用したいと思っていても実際に利用した経験はないと答える人も多く、 “ホームページにチャットが設置されていない” “設置場所が分かりづらい” など、企業の対応状況と顧客の意向にギャップがあることが分かります。
また、設置自体がされていない他にも、“一度設置はしてみたが上手くいかずに撤退する” といったことが起きています。
なぜ上手くいかなかったのでしょう。その理由は企業のコンタクトセンター運用における課題として、次の3つがあげられます。
・生産性の課題:同時対応ができない
・流入の課題:チャットを設置したはいいが問い合わせで利用されない
・目標の課題:そもそも目標を立てていない、KPIが未完成で闇雲に取り組んでいる
生産性の課題:チャットの特性である1対Nの対応が機能していない
まず生産性の課題については、チャットの特性である1対複数の対応がうまく機能せず、電話応対と同じように1対1のやりとりになってしまうケースがあげられます。
この課題における主な理由と対策は次のとおりです。
理由 |
対策 |
顧客の取り違い(誤案内)のリスク |
適切なリスクの把握と対策 |
同時対応の適正件数が不明 |
適正数値を把握し、目標として品質管理を行う |
流入の課題:導入したが使われない
続いて流入の課題としてあげられるのが、チャットを導入したが使われないという問題です。
チャット導入後は入電数が減り、チャットでの受付が増えることが理想ですが、実際はチャットでの問い合わせが上乗せされるだけで一向に入電が減らないことがほとんどです。
当然ながら、ただチャットを導入・設置しただけでは利用者は増えません。
コスト削減を目的とするのであれば、チャットへの流入・利用を促すための施策を講じる必要があります。
また、顧客接点を増やすことを目的とした場合も、疑問の解消や購買機会を逃さないためにチャットの活用は必要不可欠です。
目標の課題:KPIの設定がされていない、一部が不足している
3つめの課題は、目標やKPIの設定がされていない、曖昧もしくは不足している点です。
よくあるKPI指標の例として以下のようなものがあげられますが、チャットの利用に関するKPIなのか、顧客応対に関するKPIなのか、チャットを導入する目的に応じた適切なKPIを設定する必要があります。
KPI指標 | |
項目 |
取得方法 / 内容 |
応答率 |
問い合わせ総件数に対して、対応できた件数の割合 |
初回応答時間 |
チャット開始からオペレーターが最初に応答(返答)するまでの所要時間 |
平均対応時間 |
1件の対応にかかった平均対応時間 |
対応件数 |
日別の対応した件数 |
CPH (Call Per Hour) |
1時間あたりの応対件数 |
顧客満足度 |
顧客満足度アンケートの回答数に対し、良い回答が選ばれた割合 |
デジタル化を推進するうえでのあるべき姿
ここからはそれぞれの課題に対する具体的な解決策をお伝えします。
生産性の課題と解決策
まず1つ目は生産性の課題である同時対応についてです。
これは “案内内容の取り違え” や “顧客情報の誤案内” “対応漏れ・返信遅延” など、同時対応に潜むリスクやトラブルを適切に把握することが重要です。
チャットツールや顧客情報のデータベース、FAQ、メモ帳、Webサイトなど複数の画面を同時に操作しつつ、複数の顧客を同時対応することによる焦りがヒューマンエラーを引き起こします。
そのため、想定されるリスクへ適切な対策を講じ、最終的にルール化・明文化することで同時対応におけるトラブルの発生を未然防ぐことができます。
【考えられるリスクの例】
・オペレーションプロセス起因で生じるリスク
複数の画面や複数の顧客を同時に対応することによるヒューマンエラー
・オペレーションルール起因で生じるリスク
個人情報の取り扱い等に関するルールが徹底されていないことによるリスク
・オペレーション構築スキル起因で生じるリスク
チャット構築や運用に関する経験が不十分なため起こるリスク
【リスクに対する対策例】
・エラートレランス(発見/修正)
セルフモニター:指さし確認、メモ帳を活用したダイレクト送信の抑制
チームモニター:徹底したルール周知、ヒヤリハット事例の収集と共有
システム制御:デュアルディスプレイによるウィンドウ切替リスク低減
・エラーレジスタンス(減少)
個人情報の取り扱いルールの厳守:直接的/間接的に個人に関する情報はオペレーターから送信を禁止する
管理者によるダブルチェック:不要な情報の漏洩を防ぐためにスクリーンショットを貼り付けていないか、応対時に個人情報などを送信していないか適宜確認 など
また、トランスコスモスが行った調査の結果、4件以上の同時対応は顧客満足度および平均対応時間を悪化させることが分かりました。
このことから、同時対応の適正件数は2~3件であると考えられます。ただし、個人情報を取り扱う場合は、データの取り違え防止の観点から同時対応は2件までにするのが良いでしょう。
流入の課題と解決策
つづいて、流入の課題については顧客導線を “コール×Web全体で考える” ことで解決へと導くことができます。
顧客の多くは疑問が発生した際、まずは自己解決のためにWebサイトで情報収集を行い、その過程で問い合わせ窓口の電話番号などを認知します。
そしてWeb上で問題解決に至らなかった場合、電話で問い合わせを行う流れが一般的ですが、この際にチャット窓口の存在に顧客が気付いているか、顧客にチャット窓口の存在を認知してもらうための導線が分かりやすく用意されているかを見直す必要があります。
また、Web上での問い合わせについても、コーポレートサイトやサポートコンテンツにチャット窓口への導線が用意されているか、チャットボットによる応対でどのくらいの範囲の問い合わせをカバーできるのかを、しっかりと把握する必要があります。
チャットボットによる応対のカバー率は一見すると流入数アップに関係ないように思えるかもしれませんが、チャット運用において最重要であると言ってもよいのがリピート率です。
問題解決のためにチャットを利用し、期待した回答が得られなかった場合、“やはりチャットは使えない” と認識されてしまい、以降チャットが二度と使われなくなってしまうことがよくあります。
問題の解決率、すなわち顧客満足度の観点からしても、問い合わせへの応対カバー率を疎かにすることはできません。
しかし流入やカバー率を含め、ただ闇雲に施策を講じても期待した効果は出ません。まずは次のようなステップをふんで現状把握から始めることをおすすめします。
STEP1:顧客が電話をかけるまでの導線を知る
STEP2:チャットの設置場所やWebページに改善の余地がないかを知る
STEP3:蓄積された問い合わせログをもとに、どの程度チャットでカバーできるのかを知る
STEP4:STEP3までの結果をもとにどのような施策を実行するべきか検討する
STEP5:施策を実行し、流入~受け入れ体制を強化する
目標の課題と解決策
3つめに、目標の課題の解決策として、“入口ならびにCPH(=1時間当たりの応対件数)に対してKPIを設定する” ためのポイントについて具体例をお伝えします。
チャットを設置した目的が効率化やコスト削減であった場合、チャネル全体のチャットの割合や流入率に対し、きちんとKPIを設定しPDCAを回していく必要があります。
また、生産性に関する課題としてCPHの指標を設けていても、その要因となる平均対応時間や、同時対応率に関する指標を設定していないケースが多く見受けられます。
たとえば、同時対応率とチャットでの問い合わせ受付率がどちらも低い場合は、そもそもチャットの流入に関する課題から改善する必要があり、同時対応率が低いがチャットでの受付率が高い場合はオペレーターのスキル向上を最優先に取り組む必要があるなど、現状と課題が明確になると自ずとやるべきことも見えてきます。
効率的にデジタル化を推進するための秘訣
ここからは、効率的にデジタルチャネルへの流入を増やす方法として、コール導線調査、サイト導線調査、Secure Pathの導入について、ご紹介します。
コール導線調査
コール導線調査はデジタルチャネル比率の向上を目的とし、電話でお問い合わせされた顧客をチャットへ誘導するためになにが必要か、また課題となる点がどこにあるかを知るためのものです。
その方法ですが、オペレーターが電話サポート終了時に顧客へ簡単なアンケートを行うことで流入経路を特定します。
この際、事前に対象窓口や対象数、開始日、除外対象、ヒアリング項目、ヒアリングトーク例など、要件定義をしてから調査開始することでオペレーターごとのばらつきを防ぎます。
そして集まったアンケート結果をもとにチャット流入増加に向けて施策提案を作成し、効果検証をしながらチャット比率向上を実現していきます。
サイト導線調査
サイト導線調査も目的はデジタルチャネル比率の向上ですが、こちらはWeb上でチャット窓口まで行きつくまでにどのような導線を辿ったのか、その道中に課題などがないかを知るために行います。
これまでの一般的なWebサイト調査では、コンバージョン(CV)の獲得を目的に導線やコンテンツを評価することが多く、SEO(流入)やサイト内の回遊性アップ、CV強化を行う施策を打つことができても、サポート視点で顧客の自己解決を促すための施策が足りていないために、電話問い合わせが増えてしまうケースもありました。
また、サポートコンテンツにおいても解決率向上を目的にFAQの改善や検索性の向上などを進めたものの、そもそもコンテンツそのものが顧客に届かず、電話での問い合わせが減らないことが多いのが実情です。
そのため、トランスコスモスでは “Webサイトを訪れた顧客が疑問を持つ(持っている)ことを前提とした調査” を行い、デジタルチャネルへの流入増加やWebサイト上での自己解決率向上を目的とし、どこで疑問が生じるかではなく、疑問が生じた際に解決できるかを次の3つの視点で調査することで、自己解決導線の最適化による顧客満足度向上・呼量削減を実現します。
1. サイト上のコンテンツで疑問が解決できるか
2. 疑問が生じた際、スムーズに解決できるサイト構成になっているか
3. コールよりも自己解決チャネル(FAQ / チャット)へ誘導できているか
サポートチャネルへの導線や利用促進の仕組みを設計・実装するうえで軸となる
“サポート視点のSEO” “クリエイティブ” “導線” の3つの観点をベースに調査
Secure Path導入
コール導線調査やサイト調査を経たうえで、個人情報の取得・活用を可能にするSecure Pathを導入し、チャットの対応可能な範囲をひろげ、お問い合わせをチャット内で完結させることで顧客の自己完結率の向上および、チャットのリピート率向上を実現します。
従来のチャットサポートでは個人情報をメッセージ上で取得すると、個人情報データが使用しているツール(=サービス提供元)のサーバーに保存されてしまいます。
大半のお客様企業はセキュリティポリシーとして、サービス提供元のサーバーに個人情報が保存されないよう、個人情報を取得する際は一度、電話窓口へ誘導するフローになっていました。
一方、Secure Pathを利用したチャットサポートでは、メッセージのやりとりは個別環境サーバーに保存され、さらに暗号化されるため、電話窓口へ誘導することなくチャット上で個人情報のヒアリングや本人確認などを行い、チャットのみでサポートを完結させることが可能になります。
Secure Pathはトランスコスモスが提供するチャットツール『DEC Support』と連携させることができるため、個人情報の取得が可能なチャット窓口の設置から管理までを一元化することができます。
イメージとしてはチャットでの対応中に専用のフォームURLを送信し、フォームに個人情報を入力してもらうことで個別環境サーバーへ保存・暗号化されたデータが一時的にオペレーターのもとへ表示されるため、その情報をもとに顧客管理システムのデータと照会することが可能になります。
<参考>DEC Supportサービスのご紹介
<参考>モビルス株式会社 Security Suite
課題と解決策を正しく把握して業務効率化!
課題の把握と適切な改善策を実施することで、問い合わせチャネル全体のチャット比率向上、デジタルチャネルへの流入増加、呼量の削減・最適化などの実現に大きく近づきます。
トランスコスモスではこのほかにも、チャットの効果を最大限発揮させリピート率向上を促すためのFAQサイトとの連動・運用支援・自己解決促進のための施策や、AIチャットボットの精度を診断・改善するための施策など、複合的な支援サービスも提供しています。
増えつつあるチャットのニーズに応え、コンタクトセンターDX実現に向けた取り組みを進めるためにも、本記事に関する興味・関心、また懸念点や不明点などあれば、お気軽にこちらからお問い合わせください。
<参考>もうがっかりさせません!FAQとチャットボットで実現する最高の顧客体験価値の作り方 ウェビナーレポート
<参考>コロナ禍のトレンドと在宅の今 ~コンタクトセンター運営方針、在宅オペレーション最新情報~ ウェビナーレポート